研究課題/領域番号 |
21H05046
|
研究種目 |
基盤研究(S)
|
配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分I
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高柳 広 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 教授 (20334229)
|
研究分担者 |
岡本 一男 金沢大学, がん進展制御研究所, 教授 (00436643)
新田 剛 東京理科大学, 研究推進機構生命医科学研究所, 教授 (30373343)
|
研究期間 (年度) |
2021-07-05 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
|
配分額 *注記 |
189,930千円 (直接経費: 146,100千円、間接経費: 43,830千円)
2024年度: 33,020千円 (直接経費: 25,400千円、間接経費: 7,620千円)
2023年度: 37,700千円 (直接経費: 29,000千円、間接経費: 8,700千円)
2022年度: 40,430千円 (直接経費: 31,100千円、間接経費: 9,330千円)
2021年度: 48,490千円 (直接経費: 37,300千円、間接経費: 11,190千円)
|
キーワード | 骨免疫 / 骨免疫学 / 免疫 / 骨代謝 / 多臓器連関 / がん / 胸腺 / 免疫寛容 |
研究開始時の研究の概要 |
骨と免疫系の不可分な関係性に基づく生体制御システムを「骨免疫系」として捉え、その複雑な制御系が個体の生涯にわたる生命機能の要として機能する仕組みを解明する。骨免疫系の分子的な実態を明らかにするとともに、自己免疫疾患や炎症性骨関節疾患、骨転移など、骨免疫系の破綻による疾患の病態解明に取り組み、骨免疫系を軸とした全身制御「オステオイムノネットワーク」という、新たな生物学のフレームワークの構築に繋げる。脊椎動物の生命機能の理解を深めるとともに、新たな疾患制御の開発基盤の構築に繋げ、国民の健康維持と健康寿命の延伸に向けた先端医学研究を推進する。
|
研究実績の概要 |
本課題では、個体発生から老化に至る骨免疫系を枢軸にした生命機能の制御ネットワーク (オステオイムノネットワーク)を理解し、その恒常性維持と病理的関連性を明らかにする。 ①オステオイムノシステムの発生と維持の分子機構の全容解明: 本年度では、骨膜幹細胞が膜性骨化だけでなく生後の内軟骨性骨化にも重要な役割を担うことを見出し、骨膜幹細胞の機能障害が重篤な低身長症と骨量減少を引き起こすことを明らかにした。骨外膜に存在する骨膜幹細胞が可溶性因子Ihhを産生することで、内軟骨性骨化に必須の成長板幹細胞を遠隔から制御することを発見し、骨成長には幹細胞クロストークが重要であるという新たな概念を提唱した(Tsukasaki et al, Nat Commun, 2022)。 ②オステオイムノパソロジーに基づく骨免疫疾患の病態解明と疾患制御: 近年、関節リウマチの関節病変部における滑膜線維芽細胞は炎症型と骨破壊型の二種に分類されることが知られている。骨破壊型滑膜線維芽細胞はRANKLおよびMMPの発現を特徴とし、破骨細胞分化誘導による骨破壊と軟骨基質分解をもたらす。本年度では転移因子ETS1が、骨破壊型滑膜線維芽細胞の運命決定因子であることを明らかにした。さらに、組織間のシングルセル解析や遺伝学的解析により、ETS1は腸炎やがんなどのさまざまな疾患において共通に存在する、組織リモデリングに関わる線維芽細胞の形成プログラムを制御することが明らかとなった。(Yan et al, Nat Immunol, 2022) ③骨免疫系を基盤とした腫瘍学 (オステオイムノオンコロジー)の創成: 各種のがんマウスモデルの解析により、腫瘍や転移による骨免疫系の変容を調査し、転移や抗腫瘍免疫応答に関わる免疫細胞、骨構成細胞、間葉系細胞の遺伝子発現動態や病理学的機能の検討を進めた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
骨免疫系を構成する様々な細胞集団の分化や相互作用の分子機構に焦点を当て、それらの意義について生理と病理の両観点から解析を進めてきた。本年度ではまず、骨の外周を包む骨膜の幹細胞が可溶性因子Ihhを分泌することで骨内部の幹細胞を遠隔から制御することを見出し、骨の幹細胞クロストークという学術的意義の高い発見を成し遂げることができた。骨膜は骨の外側に存在するという解剖学的な理由から、骨代謝学・免疫学領域でこれまで注目を集めてこなかった。我々の研究成果は、骨成長や骨髄の形成・維持における骨膜の重要な生理機能を世界で初めて解き明かすものであり、既存の骨格形成機構の概念を覆す発見だといえる。また、関節リウマチにおける骨破壊型線維芽細胞の運命決定因子ETS1を同定し、さらにETS1発現線維芽細胞は腸炎やがんの病態形成に関わる組織リモデリング型線維芽細胞としての役割も有することも明らかにすることができた。近年免疫学分野では、間質細胞による免疫制御(Stromal Immunology)という概念が生まれ、国際的にも注目を浴びている。本成果は、全身の様々な病的線維芽細胞の分化に関する理解を深めるのみならず、ETS1発現線維芽細胞と免疫細胞の相互作用に基づいた病態形成機序という新たなStromal immunological pathwayを解き明かしたこととなり、Stromal Immunologyの発展に大いに貢献したと言える。以上より、各研究項目は順調に進み、概ね計画通りに解析が進んでいる。
|
今後の研究の推進方策 |
①骨・骨髄は、破骨細胞、骨芽細胞、骨細胞といった骨代謝細胞のほか、骨髄間葉系幹細胞や骨膜幹細胞、成長板幹細胞、そして多種多様な免疫系細胞に築かれ、数多の細胞種間の多角的な相互作用により、骨恒常性、骨格形成、造血が制御されている。こうした骨髄微小環境内の細胞間相互作用の分子制御機構のみならず、他臓器から入力される生理的刺激・病的刺激がいかに骨免疫系に影響を与え、骨代謝異常、骨格形成障害、造血障害が引き起こされるのかについても検討を進め、全身臓器とオステオイムノシステム間の連関の理解に繋げる。 ②これまでに関節リウマチの病態形成における免疫細胞、線維芽細胞、骨の三者連関の重要性を提唱してきたが、今後も引き続きその連関を分子レベル、細胞レベルで解明していく。また関節リウマチのみならず、他の炎症疾患や代謝性疾患、稀少性疾患など様々な骨免疫疾患の病態解明にも取り組み、新たな治療開発基盤に繋げる。さらに胸腺における中枢性免疫寛容の形成機序にも着目し、骨免疫疾患における自己寛容破綻ならびに胸腺微小環境の変容についても検討を進める。 ③マウスのがん転移モデルを用いたシングルセル解析から、各種の転移巣における免疫細胞や骨構成細胞、間葉系細胞との相互作用の分析を進め、腫瘍進展や転移に伴い生じる骨免疫系の制御破綻と抗腫瘍免疫応答との関連性を調査する。骨に関連する腫瘍のみならず、様々な遠隔臓器への転移にも着目し、免疫抑制環境の形成に関わる骨免疫系-がん相互作用の解析にも取り組む。
|
評価記号 |
中間評価所見 (区分)
A: 研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる
|