研究課題/領域番号 |
21H05053
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研究種目 |
基盤研究(S)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分J
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
長井 志江 東京大学, ニューロインテリジェンス国際研究機構, 特任教授 (30571632)
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研究分担者 |
熊谷 晋一郎 東京大学, 先端科学技術研究センター, 准教授 (00574659)
和田 真 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所), 研究所 脳機能系障害研究部, 研究室長 (20407331)
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研究期間 (年度) |
2021-07-05 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
189,150千円 (直接経費: 145,500千円、間接経費: 43,650千円)
2024年度: 35,880千円 (直接経費: 27,600千円、間接経費: 8,280千円)
2023年度: 40,040千円 (直接経費: 30,800千円、間接経費: 9,240千円)
2022年度: 35,880千円 (直接経費: 27,600千円、間接経費: 8,280千円)
2021年度: 43,290千円 (直接経費: 33,300千円、間接経費: 9,990千円)
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キーワード | 予測符号化 / 自己認知 / 発達障害 / 認知発達ロボティクス / 計算論的神経科学 / 発達障害当事者研究 / 認知神経科学 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では,認知発達ロボティクス・認知神経科学・発達障害当事者研究を融合することで,認知機能における個人の多様性の発生機序をシステム的に理解し,発達障害者の自己認知を支援することを目的とする.脳の一般原理である予測符号化理論に着目し,予測精度や階層性,時定数などの変動が,定型発達者と発達障害者の個性を連続的なスペクトラムとして表現することを検証する.本研究の成果により,すべての人の個性を正しく理解し,個性を生かす社会の実現に貢献する.
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研究実績の概要 |
本研究では,認知機能の多様性の発生機序の理解に向けて,認知発達ロボティクス・認知神経科学・発達障害当事者研究を融合した超学際研究を推進してきた.5つの研究課題について,2022-2023年度は以下の成果を挙げた. (1)仮説議論と課題設計・実装:昨年度に引き続き,認知個性の発生機序に関する仮説を議論した.初期仮説として提案した,予測符号化処理における予測精度や階層性,時定数などの変動が,自己認知や多感覚統合に与える影響をより精緻に議論した(長井, 2023). (2)発達障害当事者研究:自閉スペクトラム症(ASD)者と定型発達(TD)者における内受容感覚の多様性を調査した研究や,内受容感覚への介入に関する研究をレビューし,従来研究の課題を整理した. (3)認知神経科学研究:TD・ASD者を対象にベイズ的知覚を調べる心理物理実験を行い,服薬やADHD併発の有無が重要であることを指摘した(Wada et al, 2023).ASD者の身体表象や顔認知に関する検証と(Wada et al, 2023; Harada et al, 2023),聴覚特性の予測モデルの開発を行なった. (4)認知発達ロボティクス研究:予測符号化に基づく神経回路モデルを用いて,予測精度や内部モデルの変動が描画や空間知覚の多様性を生じることを明らかにした(Philippsen et al, 2022).TD・ASD者の聴覚・発話特性を解析し,多様性とそれを誘発する環境要因の影響を明らかにした(Hsieh et al, 2022). (5)介入実験と発達障害者支援:道具使用時の身体知覚と,それに対する心拍などの介入効果を評価するVR実験を開発した.就労系障害福祉サービスの支援員を対象とした調査で,謙虚なリーダーシップと心理的安全性がASDへのスティグマ低下と関連することを明らかにした(熊谷, 2023).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,認知機能の多様性の発生機序として予測符号化理論に基づく仮説を提案し,認知発達ロボティクス・認知神経科学・発達障害当事者研究を有機的に融合した構成的・解析的アプローチから,仮説の検証と発達障害者支援を行ってきた. (1)仮説議論と課題設計・実装では,さまざまな認知機能・動態レベルの多様性を説明する要因として,予測符号化における予測精度や異種感覚統合,環境要因などの因子が重要であると指摘し,多様性の包括的理解に向けた指針を提案した.本仮説に基づいて,(2)発達障害当事者研究では,予測符号化理論を説明するアニメ-ション教材を製作し,脚本や絵コンテの作成,アニメーターの選定を進めてきた.また,異種感覚統合に重要な心拍知覚の多様性を検証するために,先行研究で用いられた心拍計数課題の改良と予備実験の準備を進めた.(3)認知神経科学研究では,ASD者とTD者を対象に心理物理実験を実施し,仮説の検証を試みてきた.複数の課題について予測符号化仮説を支持する結果を示し,服薬や他の認知特性との関連といった想定を上回る知見も得た.(4)認知発達ロボティクス研究では,予測符号化モデルに基づいて多様性の発生機序を構成的に検証してきた.さまざまな認知機能・動態レベルを対象に実験を行い,多様性に与える予測精度や環境要因の影響など,仮説を支持する結果を得た.(5)介入実験と発達障害者支援では,密なグループ間連携のもと予備実験と改良を繰り返すアジャルイ開発を通したVR課題の設計や,ASD当事者の困難や苦悩などの主観的体験を反映した多様性評価尺度の選定を進めている. 以上のように,全ての課題において順調に成果を挙げている.グループ間の共著論文も多数出版し,超学際研究プロジェクトとしての意義も十分に示している.
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今後の研究の推進方策 |
今後は各研究課題を深化・発展させることで,多様性の発生機序の包括的理解とそれに基づく発達障害者支援を実現する. (1)仮説議論と課題設計・実装:昨年度に引き続き,認知個性の発生機序に関する仮説を議論する.初期仮説として提案した,予測符号化処理における予測精度や階層性,時定数などの変動が,自己認知や多感覚統合の多様性にどのように影響するのかをより精緻に検討する. (2)発達障害当事者研究:改良した心拍計数課題を用いて,ASD者とTD者の内受容感覚について比較する.同時に,質問紙を用いて,内受容感覚特性である敏感さやメタ認知に対応する意識も測定し,さらに外受容感覚に関する課題も行わせることで,ASD者の非定型性について詳細に検討する. (3)認知神経科学研究:昨年度に引き続き,TD者とASD者を対象にした心理物理実験を実施し,感覚信号の予測・推定に関する仮説検証を試みる.特に,ASD者におけるADHD併発の影響を明らかにすることを目指す.また,感覚経験を再現するための予測モデルを開発し,発達障害者支援への応用を試みる. (4)認知発達ロボティクス研究:昨年度に引き続き,予測符号化に基づく神経回路モデルを用いて,多様性の発生機序を検証する.予測精度や環境要因などの複数の因子がどのように相互作用することで多様性を発生するのか,より精緻に検証する.また(2)・(3)と協働して,内受容感覚の知覚特性を構成的に検証する計算モデルの開発にも取り組む. (5)介入実験と発達障害者支援:昨年度までに開発したVR装置を用いて,TD者とASD者を対象に道具操作に関する実験を行い,心拍など内受容感覚の投影が身体知覚や道具操作に与える影響を明らかにする.また,内受容感覚の拡張とマインドフルネス瞑想を取り入れ,内受容感覚の敏感さや意識の向上を実現するような介入手法を開発する.
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評価記号 |
中間評価所見 (区分)
A: 研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる
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