研究課題/領域番号 |
21H05057
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研究種目 |
基盤研究(S)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分K
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
吉田 天士 京都大学, 農学研究科, 教授 (80305490)
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研究分担者 |
長崎 慶三 高知大学, 教育研究部自然科学系理工学部門, 教授 (00222175)
緒方 博之 京都大学, 化学研究所, 教授 (70291432)
神川 龍馬 京都大学, 農学研究科, 准教授 (40627634)
高尾 祥丈 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 准教授 (00511304)
山本 圭吾 地方独立行政法人大阪府立環境農林水産総合研究所(環境研究部、食と農の研究部及び水産研究部), その他部局等, 総括研究員 (80503937)
大美 博昭 地方独立行政法人大阪府立環境農林水産総合研究所(環境研究部、食と農の研究部及び水産研究部), その他部局等, 主幹研究員 (00503939)
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研究期間 (年度) |
2021-07-05 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
190,710千円 (直接経費: 146,700千円、間接経費: 44,010千円)
2024年度: 33,020千円 (直接経費: 25,400千円、間接経費: 7,620千円)
2023年度: 33,930千円 (直接経費: 26,100千円、間接経費: 7,830千円)
2022年度: 33,930千円 (直接経費: 26,100千円、間接経費: 7,830千円)
2021年度: 56,810千円 (直接経費: 43,700千円、間接経費: 13,110千円)
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キーワード | 海洋ウイルス / 海洋微生物 / 微細藻 / オミックス解析 / 海洋低次生態系 / 微細藻類 |
研究開始時の研究の概要 |
海洋において、光合成微生物へのウイルス感染により漏出される光合成産物を起点として、海洋低次生態系全体に日周性が波及しているとの仮説を提唱した。そこで、(1)包括的メタマルチオミックス解析法を用いた低次生態系の代謝・感染の日周動態の解明、(2)ウイルス感染系培養実験による日周性をもたらす分子機構(時計仕掛け)の解明、さらに(3)日周~長期時系列観測に基づく低次生態系の微生物・代謝・感染を結ぶ因果ネットワークの構築を行う。以上により、海洋微生物-ウイルス相互作用に起因する時計仕掛けの全容と、その長期的な海洋低次生態系構造変化への影響を解明し、物質循環を駆動する未踏の基本原理を提示する。
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研究実績の概要 |
海洋において光合成微生物へのウイルス感染に日周性を見出した。そこで、娘ウイルス放出に伴って漏出される光合成産物(=有機物)を起点として、海洋低次生態系全体へ及ぶ日周性をはじめとする周期性をオミックス解析により検出し、その分子機構を解明する。本年度の研究成果は、以下の通りである。 (1)大阪湾口部・採水地点における原核生物優占種・ウイルスの調査から、原核生物優占種のほぼすべての系統において細胞密度が増すと頻度依存的にウイルス被感染度が上昇することを見出した。また、赤潮藻類に感染するウイルスに特異的なプライマーの作成にも成功し、頻度依存的なウイルスの影響を淡水生態系でも確認した。 (2)同海域においてシアノバクテリアSynechococcus属と従属栄養性古細菌MGIIにおいて、優占系統はそれぞれ1系統と4系統に限定され、前者には2属 150個余のウイルスを、後者1系統に2属 8個のウイルスペアを同定した。これらにおいてそれぞれ宿主の光合成遺伝子と増殖関連遺伝子とウイルス遺伝子の転写動態は相関し、日周性があることが示された。 (3)同海域より、セルソーターを用いて、本海域の主要一次生産者と考えられる原核生物画分に回収されるピコ真核緑藻を濃縮し、その培養に成功した。本種のオルガネラゲノム・ウイルスゲノム断片を解読し、上記の原核生物画分メタトランスクリプトームを用いることで本種の日周期的転写活動をとらえることに成功しつつある。 (4)メソコズム実験により、赤潮形成藻類種の違いにより、系統的に異なる原核生物の増殖を促し、それらの原核生物感染性ウイルスの動態にまでその差異が影響することを明らかにした。さらにウイルス感染した赤潮形成藻H. akashiwo細胞に分岐鎖アミノ酸が蓄積し、本アミノ酸を特異的に利用可能な魚介類病原性原核生物の増殖を促進するという分子機構の一端を捉えることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度からの研究の集大成として3つの原著論文を公表した。その他成果3件についても投稿準備が整いプレプリントサーバーにて公開した。R4年度成果として招待講演2件含む10件を超える学会講演を行った。この中には、ウイルス感染した赤潮藻において分岐鎖アミノ酸が蓄積すること、これを特異的に利用可能な魚介類病原性原核生物の増殖することを観察した。当初の計画よりも早く、ウイルス感染が生態系に与える影響分子機構の一端を捉えることに成功した。また、優占微生物とウイルスの日周的転写動態解析も順調に進んでいる。まだ未公表ではあるが、サイズの小ささ故に対象海域の主要一次生産者として見落とされてきた可能性があるピコ真核緑藻の培養に成功した。本種のオルガネラゲノム・ウイルスゲノム断片を解読し、本種の日周期的転写活動をとらえることに成功しつつある。昨年度に無期株を樹立したラピ藻と合わせ、当初予定より早く、新たに2種を低次生態系の起点とするメソコズム系での検証実験を行うことが可能となった。一方、実験室系で構築した藻類に対するウイルス感染検出法を環境に適応したところ、一部試料からウイルス感染を検出したが、ウイルス感染細胞は経時的に観測されず(課題克服法検討済)、上記の評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度以降は当初計画通り海洋低次生態系の代謝・感染の日周動態の解明、ウイルス感染培養系を用いたメソコズム実験による時計仕掛けの解明を引き続き優先課題として取り組み、ウイルス感染の周期性という海洋物質循環を駆動する基本原理を解明し、周期性が低次生態系に及ぼす中・長期的影響と海洋システム全体への波及効果を検証する。特に、これまでの成果で明らかにした100種程度(各月では30~50種)の優占原核微生物種とそれらのウイルスについての相互作用解析を推進する。優占原核微生物・ウイルスのゲノムを再構築し、メタトランスクリプトームデータより各微生物種の代謝過程とそれに伴うウイルスの感染過程の可視化を行う。ウイルス感染した藻類細胞が沈降するとの観察事例を踏まえ、海洋表層・下層の藻類細胞密度とウイルス被感染率の際を明確化する。また、ウイルス感染赤潮藻に見出した化合物を添加したメソコズム培養系を構築し、特異的に応答する微生物種を特定する。これにより日周的に生じるウイルス感染が、宿主の代謝改変を経て周囲の微生物群集を変化させる分子過程を実験室内で再現する。さらにラピ藻および新たに発見単離したピコ緑藻を用いたメソコズム実験を行い、これらの種に応答する微生物群集を明確化する。従属栄養性真核微生物がH. akashiwoのウイルス感染細胞へ走化性を示すことから、新たに分担者を加え従属栄養性真核微生物と原核生物との競合関係を加味し、実環境をより精度よく再現できる加えたメソコズム系を構築する。これにより、より精度の高い低次生態系モデルの理解につながると期待される。令和6年度以降に、低次生態系における生物間・遺伝子間のネットワークの構築と高次生態系・深層への波及効果の検証を本格的に進める。
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評価記号 |
中間評価所見 (区分)
A: 研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる
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