研究課題
特別研究員奨励費
電流駆動磁壁移動は、情報化社会の隆興を支える新規デバイスの誕生に繋がる重要な技術である。中でも(Mn,Ni)Nは、低電流密度で高速な磁壁移動を実現できるレアアーフリーな材料として有力である。本研究は、(Mn,Ni)Nを用いてより高効率な磁壁移動を達成するために、電流に加えてWやPtなどの重金属で生じるスピン流を利用することを目指す。具体的には、スピン流を有効活用するために、膜厚2~3nm以下の高品質な(Mn,Ni)N薄膜を作製し、その上への重金属の堆積条件を検討する。最終的には、これらの薄膜を細線加工した上で磁壁移動実験を行い、既存の集積回路に組み込めるほどに低消費電力での高速稼働を目指す。
研究代表者はマンガン系窒化物薄膜で、スピン軌道トルクを利用した高効率な電流駆動磁壁移動の達成を目指した。2022年2月より、共同研究先かつ提携大学院であるグルノーブルアルプ大学/CEA (フランス)に渡航し、筑波大学で成膜した高品質な単結晶マンガン窒化物薄膜を細線に加工し、電流駆動磁壁移動実験を遂行した。研究代表者はスピン軌道トルクの利用に必要なプラチナが堆積されたマンガン窒化物薄膜において、最高で400m/sの磁壁移動速度を電流のみによって記録した。しかしこの記録は、プラチナ層を堆積していない、スピン移行トルクのみによって達成された速度より遅いものであった。研究者は、面内磁場下での電流及び面直磁場による磁区の拡大や磁壁移動について調べることで、上記の結果の差異の解明を試みた。結果として、滞在中で行った実験からは、スピン軌道トルクによる磁壁移動への寄与は確認されなかった。また、電流印加による細線内での磁区の核発生が比較的容易に発生するという結果も得られた。このことから、研究者は磁壁移動速度に差異が生じた理由を、細線内の電流の殆どがPtに流れており、そのPtが放出するジュール熱によって隣接するマンガン系窒化物薄膜の熱攪乱が生じたためと考察した。このため、今後の共同研究計画としては、プラチナ同様にスピン軌道トルクの利用に寄与し、プラチナよりも抵抗率が大きいタングステンの活用を検討する。また、二次イオン質量法により、重金属とマンガン界面で合金の形成の有無を確認し、必要に応じてマンガン系窒化物上への重金属のスパッタ条件についても最適化を行う。
令和4年度が最終年度であるため、記入しない。
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Journal of Applied Physics
巻: 132 号: 14 ページ: 143902-143902
10.1063/5.0107172
Journal of Magnetism and Magnetic Materials
巻: 564 ページ: 170050-170050
10.1016/j.jmmm.2022.170050