研究実績の概要 |
マウスの腸管上皮細胞に4つの大腸がんドライバー遺伝子変異(Apc, Kras, Tgfbr2, Trp53)を導入することで発生した腸管腫瘍(AKTP腫瘍)の肝転移機構を解明するため、初年度は膜タンパクTm4sf1の機能的関与に着目しノックアウト細胞を複数株樹立して転移能を検証してきたが、その発現状態に相関せず転移能に不均一性が認められた。近年のゲノム解析により、進行大腸がん内では不均一なゲノム異常が報告されているが、同一のドライバー遺伝子変異をもつ腸管腫瘍に着目した悪性形質の不均一性について実験検証した報告はない。そこで、このAKTP腫瘍内に転移能の不均一性が生じる機構を調べることで、進行大腸がんにおける転移機構の解明に繋がると判断し研究を推進した。そこで改めてAKTP腫瘍オルガノイドを長期間継代培養後、サブクローニングを行い合計24株樹立した。そして、それぞれ同種マウスの脾臓に移植し肝臓での増殖性を比較した結果、4つのドライバー遺伝子変異はサブクローン間で保たれているにも関わらず、高転移性の親株と比較し約30%のサブクローン株が肝転移能を消失していた。さらに非転移性サブクローン株はコラーゲンゲル培養下で増殖抑制を示し、転移能の異なるサブクローン株同士を共培養すると非転移性サブクローン株は全体の細胞集団から次第に減少する傾向にあった。この結果から細胞外マトリクスが豊富な生体内がん組織では、転移能が消失した細胞は消失することが示唆された。また非転移性サブクローン株では腸管上皮細胞の幹細胞制御に関与するLgr5やMybなどの遺伝子発現低下が認められ、幹細胞性の低下が転移能消失の原因の1つであると考えられた。本研究成果により、大腸がんの悪性化過程においてドライバー遺伝子変異の蓄積後も悪性形質を消失する腫瘍細胞が存在し、それらはネガティブ選択として排除される可能性が示された。
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