研究課題
特別研究員奨励費
炭素導電剤は,各種電池使用環境下でアノード腐食により酸化溶解してしまう一方,プレートレット炭素ナノファイバー(pCNF)は優れた耐食性を有するため,これが殆ど認められない。本研究では,このpCNFの耐食性に着目し,炭素導電剤の耐食性を支配する構造的因子を解明する。具体的には,電解酸化したpCNFの構造・組成を,透過型電子顕微鏡観察や,赤外分光法,X線光電子分光法といった各種の分光分析により解析し,pCNFの耐食機構を実験化学的に可視化する。これにより,高耐食性炭素導電剤の設計指針確立が可能となる。
炭素材料は,各種の電極材料として汎用される一方,高電位環境下ではその酸化消耗が進行するため,耐食性改善が求められる。申請者らは,高黒鉛化プレートレット構造ナノ炭素ファイバー(pCNF)が,塩基性水溶液中高電位下での耐久性試験を経ても,その形状・導電剤性能を維持することを見出した。本研究では,pCNFの耐食機構解明を目指し,電解前後の同一位置分析観察(ILSEM)を行い,その酸化消耗の程度の定量化と,酸化消耗の方位依存性解明を試みた。ILSEMを用い,pCNFの塩基性高電位環境下における形態変化を追跡し,塩基性高電位下における酸化消耗の結晶面依存性を検討した。4.0 mol dm-3 KOH水溶液中にて,1.8 V vs RHE,48時間の電解を行ったところ,そのファイバー長さこそ20 nm程度減少していたが,ファイバー径の減少は 4 nmにとどまった。pCNFの頭部と尾部では炭素の基底面が,端部ではエッジ面が露出しており,ファイバー形状に由来するその高いアスペクト比のために,pCNFの表面の大部分はこのエッジ面からなる。したがって,pCNFが高い耐食性を示すのは,その表面の多くが酸化消耗の遅いエッジ面からなるためとわかった。このエッジ面の性質を定性的に評価するべく,電解前後の水に対する濡れ性を比較した。表面に基底面が露出している市販のカーボンブラック(CB)では見られなかった顕著な親水化が電解後pCNFでのみ認められた。この親水化は,電解酸化中の表面における含酸素官能基形成に伴う表面親水化の程度を反映していると推察される。したがって,エッジ面では,基底面に比べ含酸素官能基形成による不働態化が進行しやすいといえる。以上から,pCNFが優れた耐酸化性を示すのは,そのアスペクト比のために,表面の大部分が不働態化されやすく酸化消耗の遅いエッジ面からなるためだと結論できる。
翌年度、交付申請を辞退するため、記入しない。
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Journal of Materials Chemistry A
巻: 10 号: 15 ページ: 8208-8217
10.1039/d2ta00133k