研究実績の概要 |
本年度は,昨年度までの研究成果を踏まえ,主に博士論文の執筆に取り組んだ.「人の認識系に生じる錯覚性への介入に関する研究」と題した博士論文[1]では,錯覚・錯誤を含む知覚・認知現象に対する介入設計論を扱った.その特長は大きく以下の2点にある. ①「同一の対象に対する解釈の複数性」と定義される「錯覚性」という独自の概念を導入し,多様な知覚・認知現象を類型的に整理した.これにより解釈の複数性に焦点を当てた新たな現象・事象の捉え方を提示した.②類型・発生要因ごとの具体的な介入設計論により,錯覚や錯誤などへの多様な介入可能性を示した.現象の類型的整理と4つの具体的な介入設計・評価に基づき,「バグを取り除く」というごく一面的な介入にとどまらない,多様な工学的介入のあり方や設計指針を具体的な応用事例とともに示した. これらの研究成果は,本研究課題における奥行き知覚を操作するインタフェース構築のみならず,人の知覚・認知特性を利用した様々なユーザインタフェース・システム・コミュニケーション設計の手がかりとして活用されることが期待される.以上の博士研究と研究業績に対して,情報理工学系研究科・研究科長賞を授与された[2].また,本年度4月にJournal of Illusionで刊行された論文[3]で取り扱った新規の奥行き錯覚現象は,錯視・錯聴コンテストで入賞を果たした[4]. [1]久保田 祐貴,東京大学情報理工学系研究科博士論文 (未公刊),[2]東大院・情報理工学系研究科・研究科長賞(研究業績),[3]Yuki Kubota, et al.: Motion-driven enhancement of a lower region cue in depth perception, Journal of Illusion 3,[4]第14回錯視・錯聴コンテスト・入賞.
|