研究課題
特別研究員奨励費
ミトコンドリアのエネルギー代謝を制御し呼吸鎖複合体をターゲットとする阻害剤は、医農薬の開発に貢献するシーズ化合物として用いられてきた。しかし、新たな標的分子が長年確立されていないという問題点が存在するため、新規作用機構を有する阻害剤の発見は新薬の開発に資するツール分子となる可能性が高い。そこで、エネルギー代謝のための基質輸送を担う電位依存性アニオンチャネル(VDAC)に注目し、研究を行ってきた。これを標的とする化合物の探索やその作用機構解明を行うことで新たな標的分子とその阻害剤を確立する。
申請書の年次計画に基づき、フサラミンのトシル化学リガンドFS-1を合成した。合成したFS-1を用いて出芽酵母ミトコンドリアにおけるATP生産活性を精査したところ、天然型のフサラミンに対して阻害活性が大幅に低下した。FS-1のトシル化学構造が阻害活性低下の原因であると考え、光親和性標識基であるトリフルオロメチルフェニルジアジリンに変更したpFS-5を設計、合成した。pFS-5を用いてATP生産活性を精査したところ、天然型のフサラミンと同等の阻害活性を示したため、これを標的タンパク質の化学修飾実験に用いることとした。pFS-5を用いてフサラミンの標的タンパク質の同定を行った結果、フサラミンはVDAC1に結合し、ADPの取り込みを阻害することでATP生産を抑制することが明らかになった。また、ATP生産を抑制する濃度域よりもさらに高濃度のフサラミンを作用させると、僅かながらATP合成酵素の阻害を示すことがわかった。光親和性標識によって、ATP合成酵素のbサブユニットを標識していることが確認できた。以上より、フサラミンは主にVDAC1に結合してADP取り込みを阻害するが、ミトコンドリア内膜に入りATP合成酵素も阻害できるということが明らかになった。ミトコンドリア内のタンパク質に対し複数の標的があることは、テトラミン酸骨格を有するその他の新規天然物でも明らかにしており、これまでの阻害剤に見られない特徴的な作用機構であると結論した。以上の成果を日本農芸化学会Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry誌で報告した。
翌年度、交付申請を辞退するため、記入しない。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件)
Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry
巻: 85 号: 12 ページ: 2368-2377
10.1093/bbb/zbab176