研究実績の概要 |
今年度は高プロトン伝導体創製を目指し、それ自体に永久双極子モーメントを有するポリ酸を基盤としたイオン結晶の合成に取り組んだ。昨年度の検討により副生成物として単モレキュラーアロイ結晶のみを単離することは困難であることが分かった。そこで今年度は視点を変えて細孔内の電位勾配を生じさせる新たな戦略として、永久双極子モーメントを有するポリ酸に着目した。具体的には、電荷と永久双極子モーメントの有無が異なるPreyssler型ポリ酸(K2P5W30O110]13-、[Ca(H2O)P5W30O110]13-、[Eu(H2O)P5W30O110]12-)とPAA、K+からなるイオン結晶を(化合物I, II, III)合成した。 単結晶X線構造解析から結晶構造を調べたところ、永久双極子モーメントを持つポリ酸からなるII, IIIは永久双極子モーメントを持たないポリ酸からなるイオン結晶Iとは異なる結晶構造であることが分かった。以上の結果から、Preyssler型ポリ酸からなるイオン結晶の結晶構造は負電荷の大きさではなく、ポリ酸の永久双極子モーメントに依存することを見出した。次にプロトン伝導度を測定したところ、相対湿度(RH) 75%におけるプロトン伝導度は、IIとIIIでは10-2 S cm-1オーダーの高プロトン伝導性を示す一方で、Iは10-3 S cm-1オーダーに留まった。プロトン伝導の活性化エネルギーは、I、II、IIIでそれぞれ0.44 eV、0.32 eV、0.35 eVであった。加湿条件下のIR測定(In situ IR)の結果、II, IIIではOH伸縮振動に由来するピークが低波長シフトしており、水素結合ネットワークが密になっていた。これが高いプロトン伝導性に寄与していることを明らかにした。
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