研究課題
特別研究員奨励費
先行研究によって、軽い同位体比を持つ人為的燃焼起源の鉄が北太平洋にアジア大陸由来で供給され、プランクトンの増殖に関与している可能性が報告されている。その一方で、大気中への気化を経た鉄の供給源としては火山活動も該当し、黄砂などの自然起源鉄が二次反応により低い同位体比を持つ可能性もある。本研究では、これらの自然起源試料の分析により、エアロゾル中の低い鉄同位体比が持つ意味について考察を深める。また、地球表層での気化に伴う同位体分別現象については元素間の系統的な理解が進んでいないことから、鉄と比較して揮発性の高い亜鉛も同時に分析し、気化による同位体分別効果にその揮発性の違いが反映されるかを検証する。
大気中に浮遊する微小粒子であるエアロゾルは、地球上の物質循環に重要な役割を果たしており、気候変動にも影響を与えることが知られている。一例として、外洋域において生物一次生産を制限する鉄や亜鉛の供給源としての重要性が示唆される。このうち、人為起源エアロゾル中の鉄は燃焼気化によって低い同位体比を示し、他の起源と区別できることが先行研究で明らかにされている。一方、大気中への気化を経た鉄の供給源としては火山活動も該当する。本研究では、火山起源エアロゾル中でも人為起源と同様に低い鉄同位体比が確認されるか検証し、過去の気候変動の原因と考えられているアイスコアや堆積物中の鉄の供給源を推定する指標としての鉄同位体比の利用可能性について考察することを目的とした。また、地球表層での気化に伴う同位体分別現象について元素間での系統的な理解を深めるため、室内燃焼実験を実施して粒径別エアロゾル試料を採取し、難揮発性元素の鉄と高揮発性元素の亜鉛の同位体比の特徴を比較した。本年度は、前年度までに阿蘇山と室内燃焼実験でそれぞれ採取した粒径分画エアロゾル試料の分析を進めた。阿蘇山の火山起源エアロゾルの微小粒径では、鉄・亜鉛ともに同位体分別が認められた。この値は人為燃焼試料より小さいが、産業革命以前の気候変動に関連したシグナルとしては本研究の分別も重要な意味を持つ可能性がある。また、室内燃焼実験のエアロゾル試料の分析からは、同条件下での燃焼気化による同位体分別効果は亜鉛よりも鉄の方が大きいことが示された。本研究のエアロゾルの分析からは、特に亜鉛に関して大気中濃度と化学種の情報を併せることで、様々な起源の同位体比を統一的に解釈できる可能性が示された。今後の発展課題として、アイスコア中のエアロゾルや大気降下物質を主要な供給源とする堆積物などの分析によって、大気中の鉄・亜鉛の起源の変動史が解明されることが期待される。
令和4年度が最終年度であるため、記入しない。
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Atmospheric Environment
巻: 294 ページ: 119504-119504
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Minerals
巻: 12 号: 5 ページ: 536-536
10.3390/min12050536