研究実績の概要 |
当初は天然噴出物の分析を行う予定であったが、分析するうえで気泡成長の効果が無視できないことが判明した。そのため本年度は、代わりに理論式に気泡成長の効果をあらたに組み込む定式化を行い、気泡の成長と合体の両方が起こる場合の気泡サイズ分布(BSD)のふるまいを調べた。はじめに九州大・大橋正俊助教と共同研究を行い、成長する気泡の合体時間スケールを実験的に明らかにし、論文に成果をまとめた (Ohashi, Maruishi, & Toramaru, 2022)。その結果を踏まえ、前年度に得られていた衝突頻度関数の理論的枠組みを応用することで、気泡成長の衝突頻度関数を導出した。次に粘性制限成長、拡散制限成長、断熱膨張という3つの駆動力を考慮し、数値シミュレーションによってBSDの時間進化を調べた。その結果、拡散律速成長の場合には、BSDは-0.5の傾きを持つべき乗則を示し、BSDの幅は対数的に増加し、約2桁の大きさに収束することが明らかになった。一方、他の駆動力の場合には、BSDは-2の傾きを持つべき乗則を示し、BSDの幅は指数関数的またはより急速に増加し、発散することが明らかになった。拡散制限成長の場合には揮発性物質の拡散フラックスが低いため、大きな気泡はゆっくりと成長し合体が遅くなる、一方で他の駆動力では気泡は大きくなるにつれて速く成長し合体も速くなる。これらの結果を用いると、BSDの傾きからは合体の駆動力を区別することができ、BSDの幅からは気泡合体のタイムスケールを推定できる。以上のように本年度得られた結果は、噴出物の気泡組織から得られるBSDの解釈へ応用可能なものである。本年度の最後には、以上の結果をまとめた博士論文を執筆することで学位を取得した。
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