研究課題
特別研究員奨励費
近代的生活様式への変容過程にあるラオス北部山岳地域の住民を対象に、近代化に伴う化学物質への曝露と食生活の変化が生体内の酸化ストレスの増大に寄与しているという仮説を検証する。また、その関連における修飾因子としての腸内細菌叢の役割についても検討する。対象者から生体試料(尿・濾紙血・糞便)を採取し、化学物質曝露・酸化ストレスの定量評価と腸内細菌叢解析を行い、生体試料分析と質問紙調査(食生活)の結果を用いて統計解析を行う。統計解析では、まず化学物質曝露・食生活と酸化ストレスとの関連を検討し、さらにそこで見られた関連について、対象者の腸内細菌叢の構成の違いによってその関連が異なるかに着目した解析を行う。
本年度は、収集済みのデータを用いた統計解析に取り組んだ。その結果、ラオス北部住民の酸化ストレスに関連した以下の3つの知見が得られた。【1.近代化による微量元素曝露への影響】近代化に伴い、ラオス北部住民のヒ素への曝露とセレンの摂取量が増大し、カドミウム曝露が減少することが示唆された。近代化に伴う生活様式の変化(例えば、コメの栽培方法の変化(焼畑から水田)や肉類の摂取の増加)に起因していると考えられた。この成果は、American Journal of Human Biology誌に掲載された。【2.近代化による酸化ストレスへの影響】近代化が進んだ村に居住する対象者ほど尿中8-OHdG濃度が高く、テロメアが短かった。一方で、尿中8-isoprostane濃度は村の近代化レベルと関連を示さなかった。この結果から、近代化がDNAの酸化損傷の増大に寄与している一方で、脂質の酸化損傷には影響していないことが示唆された。【3.酸化ストレスの個人差の決定要因】尿中ヒ素濃度が高い対象者は尿中8-OHdG濃度が高く、尿中カドミウム濃度が高い対象者は尿中8-OHdG濃度が高い傾向を示した。この傾向は、尿中セレン濃度が低い対象者でより強く見られた。また、野生植物に依存した食事パターンをもつ対象者は、テロメアが長い傾向がみられた。この結果から、ラオス北部住民において、微量元素曝露と野生植物接種が酸化ストレスの個人間変動の決定要因になっていることが示唆された。得られた知見を包括的にまとめた学位論文を執筆し、2022年3月に学位を取得した。腸内細菌叢解析のデータを用いた検討は、引き続き進めていく予定であり、上記の3つの発見における腸内細菌の役割を検討することを目指す。
翌年度、交付申請を辞退するため、記入しない。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件)
American Journal of Human Biology
巻: 34 号: 4
10.1002/ajhb.23685
Environmental Health and Preventive Medicine
巻: 26 号: 1 ページ: 101-101
10.1186/s12199-021-01027-y
Journal of Environmental Science and Health, Part A
巻: 56 号: 12 ページ: 1328-1334
10.1080/10934529.2021.1991741