研究課題
特別研究員奨励費
本研究の目的は星間有機物の性質と一生を実験的手法と観測的手法の両面から理解することである。実験研究ではこれまで、古典新周囲で合成される有機物の赤外特性を再現する実験室有機物、「急冷窒素含有炭素質物質(QNCC)」の合成に成功した。観測で取得される実際のデータとQNCCの物性を比較することで終焉期の恒星周囲で作られる有機物の物性を定量的に理解する。また、国際宇宙ステーションを利用したQNCCの曝露実験も行っており、曝露後のQNCCの物性と隕石中の有機物の物性を比較することで、終焉期の恒星を起源とする有機物が太陽系形成の現場に取り込まれ、始原的有機物の一部として寄与したという仮説を検証する。
これまで、実験研究として、古典新星周囲の有機物をよく再現した実験室有機物、急冷窒素含有炭素質物質(QNCC)の合成実験および、国際宇宙ステーションを用いたQNCCの宇宙環境曝露実験を行った。本年度は、これまで取得した曝露実験の帰還試料の赤外分光分析およびX線吸収端近傍構造(XANES)分析のデータの、より詳細な解析を行った。その結果、曝露後の赤外特性および、X線特性には曝露前と比較して、酸素の混入に起因すると考えられる複数の変化が見られた。観測研究ではこれまで、大質量星の終焉機の姿であるWolf-Rayet(WR)星の中間赤外分光データの解析を行なってきた。大質量星は、中小質量星と比べて進化のタイムスケールが短いため、炭素に富むWR星は初期の宇宙において有機物の供給源となりうる重要な研究対象である。これまで、2019年にすばる望遠鏡中間赤外装置(COMICS)で取得したWR125のデータ解析を行い、その周囲で有機物の放射が観測されたことを示した(Endo et al. 2022 ApJ, 930, 116)。その結果を踏まえ、COMICSで新たに取得した16のダスト形成を引き起こすWR星の中間赤外線データの解析を行い、そのうち11のWR星で有機物に起因する放射を検出した。このうち6天体は今回の観測で初めて有機物による放射が確認されたものである。有機物による放射が検出されなかったWR星は全て比較的暗い天体であり、感度限界により検出がされなかった可能性がある。本結果は、WR星が重要な有機物の供給源であることを支持するものである。
令和4年度が最終年度であるため、記入しない。
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件) 備考 (1件)
The Astrophysical Journal
巻: ー
巻: 917 号: 2 ページ: 103-103
10.3847/1538-4357/ac0cf1
https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2021/7522/