研究課題
特別研究員奨励費
本研究では、大阪在住のアルツハイマー型認知症者を対象に、彼らの認知症とともに生きる経験とはいかなるものかを詳細に記述することとする。記述の際には、二つの軸から彼らの経験を立体的に描くことを試みる。ひとつは、認知障害をもつ身体やその生とどのように付き合い、他者と連帯しながら、毎日をやりくりし生きているのかを明らかにする。もうひとつは、彼らの生きる経験に苦悩が内在するのかを問う。内在する場合、その苦悩の源泉を日本の認知症を取り巻く社会環境に位置づけて考察することとする。本研究から、認知症当事者やその家族に対する今後の公的支援策の方途を示唆する知見の提供が可能になると予想される。
本調査では認知症をテーマに、認知症の本人とその介護家族者を調査対象に、彼らが認知症をどのように理解し、どのような経験をしながら日々のケア実践を行っているのかを明らかにすることである。また彼らの経験や考えを、生物医学的説明モデルのものとどのような点で異なるかを明らかにし、臨床場面のコミュニケーションで起こる(起こりうる)問題について考察する。調査目的を達成するため、本年度は以下二つの調査と分析を行った。調査プロジェクトの一つ目が認知症の人の生活経験を明らかにすることである。若年性認知症のAさんを対象に、複数回のインタビューと参与観察から、日々の生活がどのように展開しているのか分析した。1年以上に及ぶAさんとの関りから、認知症による多元的な疎外を経験していることが明らかになった。具体的には、自己、他者、社会からの三重の疎外である。またこのような認知症とともに生きる困難について、生物医学的説明モデルにフィットしない因果関係で理解しようとしていた。しかしAさんのそのような理解を医師が否定することもあり、異なる説明モデルの衝突が緊張や信頼を損ねる原因になることが分かった。調査プロジェクトの二つ目が認知症概念の歴史的変遷の分析である。認知症が世間で注目を集めだした1970年代以降から現在までに、認知症の社会的概念がどのように変わっていったのかを明らかにした。分析資料は新聞や刊行物を使った。この調査分析の目的は、認知症の社会的概念編成と医学知識がどのような関連性をもつのか理解することである。分析結果より、2000年代以降、認知症の差別や偏見を是正する認知症観へと作り替えられていったが、その背景には医学専門家内部での支配的認知症観の変化があったことが分かった。
令和4年度が最終年度であるため、記入しない。
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総研大文化科学研究
巻: 19 ページ: 242-260
Int. J. Environ. Res. Public Health
巻: 20 号: 6 ページ: 5044-5044
10.3390/ijerph20065044
CSRDA ディスカッションペーパーシリーズ
巻: 41
https://www.alzheimer.or.jp/?p=47507