研究実績の概要 |
昨年度に引き続き、スピロシクロプロパンを用いる炭素環形成反応の開発と、それを利用した有用化合物の合成に取り組み、以下の研究成果を得た。 (1)リンイリドによるスピロシクロプロパンの開裂―環化反応の開発 6員環スピロシクロプロパンとリンイリドとの反応の基質一般性を、昨年度に検討し最適化した条件を用いて検討した。種々のシクロヘキサン‐1,3‐ジオン‐2‐スピロシクロプロパンと、安定リンイリドを酢酸エチル還流下で作用させることで、目的の1,2‐トランスジヒドロインダノンを32-87%の収率で得ることができた。反応機構を解析し、リンイリドはシクロプロパンを直接攻撃し開環させ、その後分子内Wittig反応が進行して環化体が得られることが示唆された。また、ジヒドロインダノンは臭化銅を用いて酸化処理することで、天然物や医薬品に中心骨格としてしばしば見られる4‐ヒドロキシインダンへと変換することができた。 (2)リンイリドによるスピロシクロプロパンの開裂―環化反応を用いたアズレンの合成 (1)の反応を7員環スピロシクロプロパンへと適用拡張し、医薬品や材料分子としての利用が期待される非ベンゼン系芳香族化合物アズレンの合成を試みた。はじめにシクロへプタン‐1,3‐ジオン‐2‐スピロシクロプロパンと安定リンイリドをクロロベンゼン還流下で作用させることで、種々のヘキサヒドロアズレノンを52-67%の収率で得た。続いて得られた環化体の酸化を検討した。7員環上のケトンを予めシリルエノールエーテルとし、2,3‐ジクロロ‐5,6‐ジシアノベンゾキノンで酸化した後に、脱シリル化することで4‐ヒドロキシアズレンを得ることに成功した。本手法は、従来のアズレン合成法にて主な原料であった高価で入手困難なトロポノイドを用いず、市販のシクロへプタン-1,3‐ジオンから5工程で種々の多置換アズレンを合成することができる。
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