研究実績の概要 |
小売店の独占的競争と内生的な消費者立地を基礎とする商業集積モデルを構築した.従来,小売店の立地と内生的な消費者立地を同時に考慮した研究はあまりなく,Fujita and Thisse (RES1986), Fujita (RSUE1988), Liu and Fujita (ARS1991) などに限られる.これらの先行研究とは異なる本研究の着眼点の一つは,所得移転がもたらす厚生への影響である.このモデルを用いて,小売店への所得補助や消費者間の所得移転がもたらす厚生への影響を分析した.その結果,消費者の多様性への選好の表現として,CES型の効用関数を仮定した場合,小売店への所得補助政策の導入は厚生を上昇させるものの,家計間の所得移転の導入は厚生を低下させるという結論を得た.さらに,市場均衡において,小売店の店舗数は最適ではないものの,消費者の立地だけに限定した場合,市場均衡は局所的に最適であるという結論を得た.この結論は,家計間の所得移転だけでなく消費者の立地規制の導入も厚生を低下させることを示唆する.この結論の頑健性を調べるために,VES型の効用関数,CARA型効用関数も使用して数値シミュレーションを実施した.シミュレーションの結果,CES型効用で得られた結果と定性的に同一な結果が得られた. 上記の商業政策がもたらす便益を定量的に調べるために,日本のデータを用いてパラメータのキャリブレーションが可能な商業集積モデルを開発した.仙台市のデータを用いてパラメータをキャリブレーションし,商業政策の便益を計算した.その結果,小売店への所得補助がもたらす便益は約7,300円/(年・人)であるのに対し,消費者間の所得移転は約-12,000円/(年・人)という結果が得られた.便益の観点からも,小売店への所得移転政策は推進すべき商業政策であると解釈できる.
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