研究課題
特別研究員奨励費
周囲環境は我々の行動様式を形作る。しかし、環境の変化が個体に与える行動変化とその神経基盤の理解には未だ不明な点が多い。本研究の目的は、環境のネガティブな変化が個体の行動に与える影響とその神経基盤を明らかにすることである。豊かな環境から通常環境に移行する「ネガティブな環境変化」飼育を、ストレス反応に関するRNA修飾関連遺伝子改変マウスと、遺伝子改変していないマウスに対し実施し、行動指標を解析する。
本年度はRNA修飾関連遺伝子改変マウスの行動を解析した。まず、「豊か」「通常」それぞれの環境で育った遺伝子改変マウスに対して、感覚、運動から記憶に至るまでの行動テストバッテリー解析を行った。その結果、遺伝子改変マウスの一部の行動特徴が外部環境により変化することを確認した。これは、RNA修飾関連遺伝子が遺伝と環境の相互作用に特定の行動領域において関わることを示唆する成果である。一方で、豊かな環境を失う「ネガティブな環境変化」曝露下における行動を調べたところ、遺伝子改変マウス群とコントロールマウス群の双方で、攻撃行動の増加などの顕著な個体間相互作用の変化が見られない傾向があった。この理由として、本年度用いたC57BL/6系統マウス(遺伝子改変マウス作出において一般的な系統)は、前年度に発表した論文で用いたBALB/c系統マウスよりもストレスに強い傾向にあることが考えられる。この2つの系統の遺伝的違いが、「ネガティブな環境変化」曝露下での2系統の行動の違いを生んだ要因の1つである可能性がある。上記の観察結果(遺伝子改変マウス系統において「ネガティブな環境変化」曝露下で行動が顕著に変化しない)は当初想定していなかったものであったため、RNA修飾関連遺伝子と行動の関係について別の手段で探究する方向へと研究方針を転換した。具体的には、マウスの行動の常時モニタリングが可能かつオペラントチャンバーを備えた特殊ケージを用い、日常行動、行動の柔軟性、動機づけなどの評価項目を備えた追加の行動テストバッテリー解析を行った。その結果、この遺伝子改変マウスは、強い空間選好バイアス、motivated行動の減少などの特徴的な行動を示すことが明らかとなった。これは、このRNA修飾関連遺伝子が関わる神経基盤の理解に貢献する成果である。
令和4年度が最終年度であるため、記入しない。
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European Journal of Neuroscience
巻: 55 号: 5 ページ: 1118-1140
10.1111/ejn.15602