研究課題
特別研究員奨励費
がん細胞など特定の標的のみを可視化する発蛍光性分子(蛍光プローブ)は、その簡便性と高い時空間分解能、低侵襲性の観点から、細胞や動物を対象とした研究には無くてはならないツールである。一方、がんの転移・増殖・治療抵抗性の主な原因とされるがん幹細胞や、好気的代謝において重要な役割を果たすピルビン酸脱水素酵素のみを選択的に可視化する蛍光プローブは皆無であり、それらの開発が大いに求められている。本研究では、独自に見出した蛍光プローブ設計法に基づき、がん幹細胞やピルビン酸脱水素酵素を生細胞内・生体内で可視化する蛍光プローブの開発を目指す。
がん幹細胞を選択的に可視化する蛍光プローブの開発を目指し、重要ながん幹細胞マーカーであるアルデヒド脱水素酵素(ALDH)1A1に応答し蛍光がOFFからONに切り替わるALDH1A1応答性turn-on型プローブの開発を行った。主な成果の概要は以下のとおりである。(1) シアニン色素Cy5またはCy7の色素骨格に消光基としてメルカプト基と、酵素基質としてホルミル基を導入した新規プローブを合成した。これらのプローブはALDH1A1に応じて蛍光が大きく増大したことから、ALDH1A1応答性turn-on型プローブであることが明らかになった。(2) 開発したCy5誘導体は、ヒトすい臓がん由来の細胞株SUIT-2細胞中に存在するがん幹細胞を選択的に可視化した。2種類のヒト肺がん細胞を用いて担癌マウスを作製し、開発したCy7誘導体をその担癌マウスに投与すると、がん幹細胞を多く含む腫瘍を選択的に可視化することを明らかになった。またこれらのプローブは、がん幹細胞イメージングのゴールドスタンダードとなっている蛍光プローブよりも高コントラストにがん幹細胞を可視化したことから、開発したプローブの優位性が示された。(3) 開発したプローブの更なる高機能化を目指し、ALDH1A1とがん細胞マーカーのβ-ガラクトシダーゼ(β-gal)の二つの酵素との反応によって初めて蛍光がONになるdual応答性プローブを開発した。合成したβ-ガラクトシル基とホルミル基を有するヘミシアニン色素は、ALDH1A1とβ-galのどちらか一方の酵素のみでは発光しないが、両方の酵素が存在すると強く発光することを明らかにした。SUIT-2細胞とヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を用いた実験により、dual応答性プローブはALDH1A1のみに応答するプローブよりもがん幹細胞を高選択的に可視化することを明らかにした。
翌年度、交付申請を辞退するため、記入しない。
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