研究課題/領域番号 |
21J21292
|
研究種目 |
特別研究員奨励費
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分26010:金属材料物性関連
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
松浦 祐樹 名古屋大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
2,200千円 (直接経費: 2,200千円)
2022年度: 700千円 (直接経費: 700千円)
2021年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
|
キーワード | Phase-field / 準安定相 / アモルファス相 / 分相ガラス / データ同化法 / アジョイント法 / 粒子フィルタ / KJMA式 |
研究開始時の研究の概要 |
材料設計では,非平衡相(準安定相)を含む組織の制御が鍵となる.準安定相の熱力学パラメータを相平衡実験等の従来手法で得ることは難しく,故に組織形成過程のPhase-field(PF)シミュレーションの実施が困難な場合がある.モデル内パラメータの決定手法として,シミュレーションに実験データを取り込むデータ同化法がある.本研究では,分相ガラスのSTEM観察実験データを使用したデータ同化により,準安定相(アモルファス相)のスピノーダル分解のPFモデルにおける熱力学パラメータの推定を試みる.分相ガラスのアモルファス相のギブスエネルギーを決定し,データ同化法の活用による材料設計の効率化に資する.
|
研究実績の概要 |
データ同化法を活用した準安定相のギブスエネルギー推定に関しては,まず,HAADF-STEMや4DSTEM観察実験により得られる分相ガラスの濃度場は,実際には3次元の組織を電子線照射方向に次元圧縮した低次元(2次元)の濃度場情報として得られるが,このことを念頭に置いて,以下のような双子実験を実施した.簡単のため2次元のPFシミュレーションで生成したスピノーダル分解組織を,y軸方向に次元圧縮(平均化)することによって1次元の濃度場情報を作成し,その1次元の濃度場情報を観測データとして用いて熱力学パラメータを推定するアジョイントモデルを構築した.既知の初期濃度場(2次元)を使用した場合には,パラメータの推定に成功した.次に,BaO-SiO2ガラスにおいて近年見出された,組織ドメイン境界が平行移動することによって1つの相分離組織が異なる相分離組織に連続的に置き換わるような組織変化をモデル化したPhase-field(PF)モデルに対し,逐次データ同化法の一つである粒子フィルタを適用した.アモルファス相のギブスエネルギー関数を濃度の10次式にエントロピー項を加えた式にて定義したPFモデルに対し,粒子フィルタを用いて,PFモデル内の11個のギブスエネルギーパラメータを複数同時推定する手法を構築した.初期分布の設定や高次項がパラメータ推定値に及ぼす影響が特に大きいことを明確化した. そして,アジョイント法のPF法への適用に関しては,一般化KJMA式のパラメータ推定を行った.加えて,KKT条件を考慮する手法を提案することにより,従来は困難であった,PFシミュレーションにおいて広く行われる秩序変数の不等式制約(例えば,凝固のPFモデルにおける固相の存在確率φに対する任意の位置xおよび時間tにおける不等式制約0≦φ(x,t)≦1)に対するアジョイントモデルの導出を可能とした.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
準安定相のギブスエネルギー推定についての令和3年度の主要な目標は,以下の2点であった. (1)分相ガラスの実験データの前処理に関連し,双子実験により試料厚さの影響調査を行う. (2)アジョイント法以外のデータ同化法(粒子フィルタ等)を用いたパラメータ推定の確立を双子実験レベルで試みる. (1)試料厚さの影響調査については,1次元の濃度場情報を観測データとしてパラメータを推定するアジョイントモデルを用いて,既知の初期濃度場(2次元)を使用した場合には,パラメータの推定が可能であることが示された.これは,理想的な場合には限られるものの,材料組織の情報量が削減された低次元の観測データからも,材料パラメータを推定しうることを示した重要な成果と考える.今後は,初期濃度場が得られないといった,より現実的な状況においても本手法が適用できるか否かを検証する必要がある.(2)のアジョイント法以外のデータ同化法に関しては,アモルファス相のギブスエネルギー関数を濃度の10次式にエントロピー項を加えた式にて定義したPFモデルに対し,粒子フィルタによって,PFモデル内の11個のギブスエネルギーパラメータを複数同時推定することが可能であることが示唆された.初期分布の設定や高次項がパラメータ推定値に及ぼす影響が特に大きいことを明確化した.今後は,粒子数を増やして準安定相のギブスエネルギーパラメータの推定精度向上を図るとともに,非逐次データ同化法であるアジョイント法を併用する予定である.以上より,本研究課題の進捗状況については,おおむね順調に進展していると判断した.
|
今後の研究の推進方策 |
令和3年度終了現在,アジョイント法だけでなく粒子フィルタについての各種ノウハウも得られたと考える.次年度は,準安定相のギブスエネルギー推定に関しては,以下の3点について,検討を進める予定である. (1)非逐次データ同化法のアジョイント法を用いて,初期濃度場を未知とし,パラメータとともに初期濃度場も推定した場合に,低次元の観測データを用いてパラメータが正しく推定できるか否かを検証する. (2)逐次データ同化法の粒子フィルタにおいて,粒子数を増やし,パラメータ推定精度を向上させる. (3)アジョイント法において,評価関数に背景誤差に起因する項を付け加えた弱拘束の場合について検討し,システムノイズを含むPFモデルにも対応可能なアジョイントモデルの構築を進める. これら3課題の推進において,逐次型の粒子フィルタと非逐次型のアジョイント法を併用することにより,いずれかの手法のみでは得られないであろう相乗効果を図る.
|