研究課題/領域番号 |
21K00006
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01010:哲学および倫理学関連
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
宮島 光志 富山大学, 学術研究部薬学・和漢系, 教授 (90229857)
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研究分担者 |
森下 直貴 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 客員教授 (70200409)
李 彩華 名古屋経済大学, 経営学部, 教授 (10310583)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | 三木清 / 共生社会 / 東洋的ヒューマニズム / 『人生論ノート』 / 出版文化 / 死生観 / 幸福論 / 務台理作 / ヒューマニズム / 満洲 / 老成学 / 農本主義 / 東亜協同体 / アジア主義 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は三木清(1897-1945)の「東洋的ヒューマニズム」理念を先駆的な共生思想として読み解く試みである。研究方法として三木の3度に及ぶ満洲体験に着目し、それを機縁とするヒューマニズム論の変遷に光を当てる。 具体的には、一方では精緻な文献調査と併せて現在の中国東北部を現地調査し、東洋的ヒューマニズム理念の生成を解明する。他方では日本社会に登場した古今のヒューマニズム論と対比して、東洋的ヒューマニズム理念の構造を解明する。 三木の東亜協同体論は日本の大陸進出を正当化する論理として断罪されてきたが、それを東洋的ヒューマニズム理念の構想として捉え直し、アジア的な共生社会の哲学的な基礎を探る。
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研究実績の概要 |
本研究は三木清の「東洋的ヒューマニズム」理念を「中間者の哲学」の展開形態として読み解き、それを「共生社会」を哲学的に基礎づける創造的な思想として再評価する試みである。三木は一貫して「中間者(milieu)の哲学」を追究し「中間者としての人間」を西洋の伝統的ヒューマニズムに照らして分析した。"milieu"には「環境」の意味もあり、三木は初期のパスカル論・マルクス主義研究から歴史哲学、哲学的人間学、技術哲学、構想力の論理に至るまで、独自の環境哲学を模索し続けた。最終的に三木は《人間が環境を創り・環境が人間を創る》という双動的・成全的な環境理論、および自然と融和する「東洋的ヒューマニズム理念」を唱道するが、不幸にしてそれは日本の大陸進出を正当化する「東亜協同体論」と表裏一体のイデオロギーと化し、三木哲学の限界と見なされてきた。そうした通説の刷新を目指して令和4年度の研究活動が展開された。 すなわち、本研究班の4名が三木清の代表作『人生論ノート』に焦点を絞って個別テーマに取り組み、三木の「東洋的ヒューマニズム」理念と各種の「共生社会」構想をめぐって比較研究を展開した。そして合計3名のゲストスピーカーも交えて2度にわたり、三木清『人生論ノート』に関する研究集会を開催した。その記録は研究(中間)報告書『三木清『人生論ノート』をめぐる対話―刊行80年からその先へ』に纏められ、三木独自の人生哲学が、人間(個人と社会)と自然をめぐる多角的で重層的な思索の結晶として、いまなお「共生社会」実現のヒントを提供しうる可能性がさまざまに示唆されている。 研究代表者は学会発表「三木清と務台理作―新たなヒューマニズムの模索」により、務台が戦後に提唱した「第3ヒューマニズム」は三木の「東洋的ヒューマニズム」理念を批判的に継承していると解釈した。研究分担者の森下も「老成学」の立場から共生社会論を展開した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画の当初案では研究2年目の令和4年度に、三木清に所縁の旧満洲主要都市(満鉄関連施設および各種の文教施設など)を研究メンバーが訪問して三木の足跡を辿り直し、併せて中国人研究者を交えて現地で「中国から見た東亜協同体論」に関する国際共同セミナーを開催する予定であった。しかし、数年来の全世界的なコロナ禍(特に中国の「ゼロコロナ政策」)に加えて、令和4年2月以降はウクライナ情勢などの影響で航空運賃が高騰するなど、複合的な理由で、当初案は断念せざるを得なかった。 しかし、その代案(次善の策)について熟慮を重ねた結果、国内で身近な研究活動を活性化させる道を選ぶことになった。すなわち、三木清『人生論ノート』に焦点を絞った研究集会の開催であり、具体的には、シンポジウム「三木清『人生論ノート』の余白を埋める―刊行80周年記念」(三木清研究会と共催、2022年6月25日、兵庫県たつの市)、およびワークショップ「三木清『人生論ノート』の現在・過去・未来―刊行80/70周年記念企画」(日本倫理学会、2022年9月30日、オンライン開催)が実現した。 これら2度の研究集会では、一般市民も含む多くの参加者を得て、活発な意見交換(開かれた対話)が展開された。その一環として三木清が提唱した「東洋的ヒューマニズム」理念についても批判的な捉え直しが試みられた。もちろん「共生社会の哲学的基礎づけ」としては手探り状態であるが、研究集会の記録を『三木清『人生論ノート』をめぐる対話―刊行80年からその先へ』として自費出版し、広く社会に開かれた「議論の足場」を築いた意義は、けっして小さくない。また、研究集会の資料「『人生論ノート』の解説と評価(変遷史)」と「『人生論ノート』関連年譜(成立と流布)」を作成する過程で、三木哲学の研究史を辿り直すことができた。以上が「おおむね順調に進展している」と判断したゆえんである。
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今後の研究の推進方策 |
後半の2年間では、一方では、本研究計画の原点に立ち返って文献調査(資料の渉猟と発掘)を徹底する。すなわち、三木清の満洲体験に関する各種資料(三木自身、友人の唐木順三、恩師の寺田喜治郎に関する資料、三木の評論、満洲で刊行された各種の新聞・雑誌類)を渉猟・発掘して、三木の満洲での足取り(特に講演記録や報告資料の作成)と思想形成の過程を精緻に解明したい。その際には、地道な研究方法として、各種データベース検索の拡充と徹底に努める。なお、三木の「フィリピン体験」については一定の研究成果が蓄積されているので、その活用と更新も具体的な推進方策に加えられる。 他方では、令和5年度か最終の令和6年度に中国東北部(瀋陽ほか)で現地調査と研究交流を開催すべく、現在もなお可能性を模索中である(交渉の窓口は研究分担者の李が担当)。しかし、予算の制約および国際情勢などの理由でその可能性が最終的に潰えたと判断した場合には、国内での共同研究を拡充することにより、研究活動の活性化を図りたい。すなわち、国内外で活躍中の外国人研究者(欧米出身者とアジア出身者の数名)を招聘して三木清の「東洋的ヒューマニズム理念」に関する国際セミナーを開催し、その成果を情報発信したい。 以上と併せて、研究代表者は個人的に、三木が昭和初期に挑んだ「マルクス主義とイデオロギー」をめぐる思索を〈交渉の哲学(交渉的存在の人間学)〉として再構成する。その過程で後年の「ヒューマニズム論」や「環境哲学」の成立事情が解明されるものと期待される。さらに付言すれば、そうした三木清の(十分な展開を欠く)思索を、務台理作が戦後に構想した「全体的人間の哲学」や「第三ヒューマニズム論」と全面的に比較対照することにより、三木哲学を埋もれた共生社会論として現代に生かす道も拓けてこよう。なお、研究分担者の森下は、引き続き「老成学」の立場から共生社会論を展開する。
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