研究課題/領域番号 |
21K00007
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01010:哲学および倫理学関連
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
秋葉 峻介 山梨大学, 大学院総合研究部, 特任講師 (80861012)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | 人生の物語 / 自己の再構成・再創造 / 自己への配慮 / 自他関係 / ケア倫理 / 関係的自律 / 家族 / 共同意思決定 / 生命倫理 |
研究開始時の研究の概要 |
終末期医療に係る意思決定について、日本では家族を内面化した主体としての患者の存在が少なくなく確認され、容認されている。共同意思決定の考え方がガイドライン等に盛り込まれつつあるが、その理論的基礎のひとつである関係的自律概念に関する議論は主題的に扱われてこなかった。前述のような患者と家族の関係について、ガイドラインや臨床実践はもとより、理論レベルでも関係的自律の議論との差異が示唆されるものの、この検証はいまだ十分になされていない。 そこで本研究では、この主体に着目し、関係的自律の議論との異同を分析することを通じて家族の機能を問い直し、ケア倫理の批判的再構築を目指す。
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研究実績の概要 |
2022年度は、フェミニズムやケア倫理に関する文献の分析を進めるとともに、ケア倫理を「家族倫理」とみたときの患者・家族の関係、また、家族を持たない者の捉えられ方に関する批判的検討を中心として取り組んだ。 8月に出版された『狂気な倫理:「愚か」で「不可解」で「無価値」とされる生の肯定』に第3章として所収された「ケア倫理における家族に関するスケッチ――「つながっていない者」へのケアに向けて」では、Eva Kittayのケアに関する議論を批判的に検討することで、ケアを担う家族の存在を前提して議論が組み立てられていることを指摘し、ケアの倫理が家族倫理として展開されていることを明らかにした。この検討を進める中で、ケアをめぐる議論における、家族を持つものと持たざる者との捉えられ方の異同に関する示唆を得た。 また、医療・ケアに関する意思決定における家族の役割を改めて問い直すべく次の作業に取り組んだ。①「人生の最終段階」をめぐる意思決定において「人生の物語り」がどのような意味を持つか②生/死をめぐる意思決定が「人生の物語り」とどのような関係にあるのか③「人生の最終段階」において、われわれは「人生の物語り」をめぐって「何」について決定しているのか、を検討することである。これらの作業から、われわれが人生の最終段階において行う意思決定を通じて、たんに医療やケアの方針を決定するにとどまらず、オーバーラップする人生の物語を共有する家族や、これを受け取る医療者との対話のなかで、患者が自ら主体的に人生の物語りや自己を再構成・再創造しているということが示された。また、このことについて、Michel Foucaultの自己への配慮の議論、自他関係の議論との関係を検討した。 2022年度に行った研究の内容を整理・修正したものについて、日本生命倫理学会ならびに日本医学哲学・倫理学会の学会誌に投稿した(現在査読中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度進捗が遅れていた分、今年度は学外での文献調査や研究打ち合わせを充実させた。研究対象となる分野の専門家との意見交換により、きわめて多くの示唆を得られたこと、館外持ち出しのできない文献等を含めて網羅的に調査を行うことができたたため、文献の収集や精査も順調に進められた。外国語文献の調達も昨年度よりも順調に進められたため、その整理・精読のための時間もおおむね予定通りに確保できた。 これらにより、研究成果の発表もおおむね順調に行えた(関連する学会等発表3件、論文投稿2件、論文・書籍(分担執筆)の刊行2件)。最終年度となる2023年度に研究の総括を行うにあたって、資料やそれをもとにした研究成果の段階的な蓄積が進められている。 他方で、専門家を招いての研究会は今年度も諸々の理由から開催を見送ることとなってしまった。資料や文献からのインプットはもちろんのことではあるが、研究対象となる分野での最新の研究や知見を専門家の報告から学ぶこともきわめて有意義である。この機会を自ら主宰できなかったことは改善すべき課題として残る。 以上を総合的にみて、進捗状況を「おおむね順調に進展している」と判断するものである。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる2023年度は、前年度までの研究成果の総括に照準を定める。 ここまでの研究成果として、ケア倫理が家族倫理として展開されつつあることが明らかになってきたことがもっとも重要な点である。これを踏まえて、ケア倫理を批判的に再構築するならば、その方針は大きく分けて、①「元来の」ケア倫理に引き戻す、②家族倫理としてケア倫理を構築する、③「元来の」ケア倫理でも家族倫理でもない仕方で構築する、ように見通すことができると思われる。したがって、これらのそれぞれについて、理論レベルのみならず、実際に政策レベルや臨床レベルの議論においても機能し、成立するような仕方がどれであるのかについて検討してゆくこととなる。 これらにおいて手がかりとなるのが、生/死をめぐる意思決定において、患者が自ら主体的に人生の物語りや自己を再構成・再創造しているということ、また、この議論がMichel Foucaultの自己への配慮の議論、自他関係の議論と関連付けて展開し得るという点である(2022年度の研究成果より)。これを踏まえ、生/死をめぐる意思決定において前提される「関係性」をあらためて問い直すことを含め、ケア倫理と自他関係、自己への配慮の議論との関連について分析し、それがいかにケア倫理の批判的再構築につながり得るのか考察する。そしてまた、そこで示される再構築された「倫理」がはたしてケア倫理の系譜に位置づけられるのか、あるいは生/死をめぐる意思決定に関する倫理の新しいあり方であるのかについて明らかにしてゆく。 以上の成果については前年度までと同様に、各種学会・研究会での発表および論文投稿を行い、成果の発信ならびに意見交換によって研究を精緻化していく。なお、本研究の総括の過程において、その成果は博士学位論文の内容として一部含まれることとなる。
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