研究課題/領域番号 |
21K00028
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01010:哲学および倫理学関連
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
西村 高宏 福井大学, 学術研究院医学系部門, 准教授 (00423161)
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研究分担者 |
近田 真美子 福井医療大学, 保健医療学部, 准教授 (00453283)
BALDARI Flavia 東京大学, 東京カレッジ, 特任研究員 (90823435)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2021年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | 哲学対話 / 臨床哲学 / 哲学プラクティス / 精神保健 / イタリア / 精神医学 / 哲学相談 / 哲学カウンセリング / 精神保健医療福祉 / 哲学カフェ |
研究開始時の研究の概要 |
イタリア(おもにトリエステ)では、現地の精神保健センターなどに関わっている医療従事者や当事者たちとともに、いわゆる治療目的とは異なった文脈のなかで精神保健医療福祉領域のうちに哲学的対話実践が導入されてきた。この取り組みは、同領域における今後の重要な参照軸となるばかりか、哲学プラクティスの今後の展開を考えるうえでも極めて意味のある取り組みと言える。そこで本研究では、イタリアの医療従事者や哲学プラクティショナーなどとの綿密なネットワーク(研究体制)をもとに、精神保健医療福祉領域における哲学的対話実践の可能性を根本的に吟味し、国内の精神保健医療福祉の現場に見合った哲学的対話実践モデルの構築を目指す。
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研究実績の概要 |
当該年度は、まず、本科研の研究協力者である小村絹恵がイタリア・トリエステに滞在し、現地の精神保健医療の関係者および当事者、またはその家族らから広範囲にわたるヒアリングを行い、現在、大幅な変化を迎えつつあるイタリア精神保健の現状とその問題点について詳細に調査した。具体的には、イタリアにおける精神保健医療の取り組みを支えてきたWHOコラボセンター(精神保健局/コラボセンター)に所属する精神科の医師や看護師、ソーシャルワーカー、法律関係者、事務職員にくわえ、トリエステで精神保健局とも連携しながら活動を展開しているScuola di filosofia di Triesteに所属する哲学プラクティショナー、さらにはアソシエーション「精神的に苦しむ人の家族」と呼ばれる、精神保健に関わる家族をもつ家族会・遺族会代表などからイタリアの取り組みに関するインタビュー調査を行った。ここでの成果は、2023年2月に「トリエステ地域精神保健の今 支援者ならびに哲学者へのインタビュー報告」と題して開催した公開成果報告会にて共有し、多くの参加者との積極的な意見交換の機会を得ることができた。 さらに、上記の作業と並行して、研究分担者のFlavia baldariが、オンライン等にて、Neri Pollastri などを始めとする、イタリアで活動する著名な哲学プラクティショナーや精神科医たちへのインタビュー調査を「哲学対話実践」の観点から別途行い、それぞれのプラクティショナーから精神保健医療領域における哲学対話実践の可能性/不可能性に関する意見を聴取することができたことは大きな収穫であった。 そのほか、イタリアの哲学者による文献調査を継続して行い、精神保健医療領域における哲学対話実践の〈非治療的〉アプローチの可能性について批判的に検証することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウィルス感染症拡大の影響を受けつつも、オンラインや現地への視察およびインタビューなどをとおして、イタリアの哲学プラクティショナーや精神保健領域の医療従事者たち、さらには家族会などとの研究連携体制を整えることができた。具体的に名前を挙げれば、イタリアの哲学プラクティショナーであるNeri Pollastri、Fondazione Ligheaのクリニカル・スーパーバイザーMassimo Buratti (哲学者・心理学者)、Scuola Superiore di Counseling Filosofico(トリノ、哲学的カウンセリングスクール)の校長を務めるLodovico Berra(精神科医・心理療法士)、さらにはトリエステのla Scoula di filosofia di Triesteで活動を続けるAlessandro di Grazia、「哲学的志向性の伝記分析」の創始者でもあるミラノのRomano Madera (哲学者・精神分析者)、トリエステにて自死遺族家の会を運営し、地域の精神保健活動に尽力してきたOpatti Bruno(A.S.D SAMARCANDA TRIESTE)などである。くわえて、トリエステのバルコラ精神保健センターで働く精神科医や看護師、ソーシャルワーカー、さらには精神保健に関する市民・当事者の会「憲法32条の会 (Articolo 32)のメンバーたちとも連携することができたことは、本研究の今後の活動を大いに展開させる重要な成果と言える。 また、上記フィールドワークへの準備作業と並行して、研究分担者および研究協力者個々人で、イタリアの哲学プラクティスや国内外の精神保健医療に関連する詳細な文献研究も継続して行うことができた。同時に、イタリアの精神保健の現状に精通している研究協力者の小村絹恵の現地調査活動をとおして、2021年11月以降大きなの変貌を遂げつつあるトリエステの精神保健医療サービスの動向についても最新の状況を把握することができた。
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今後の研究の推進方策 |
推進方策(1):これまでの文献調査やインタビュー調査などの成果を踏まえ、精神保健医療領域における哲学対話実践の〈非治療的〉アプローチの可能性、とくに、「哲学者がクライエントとともに意思決定の問題や実存的問いについて考え、一対一の差し向かいで議論する」哲学カウンセリングとは異なった、当事者、家族、さらには医療専門職者なども含めた複数人の参加者によって行われる哲学対話セッションの可能性について集中的に検討にしたい。というのも、これまでの研究活動の成果から、精神保健医療福祉領域においては、クライエントと哲学者との差し向かいの対話セッションだけでなく、むしろ、医療専門職者間におけるコンフリクト、さらには家族、施設、地域市民などのあいだの価値観の齟齬などを、より抽象度をあげた複数人による哲学対話セッションをとおした「哲学的ケア」の可能性をとくに得てきたからである。このような複数人による哲学対話セッションが精神保健医療福祉領域の現場においてどのような効果を発揮するのか、関連する学会等(日本精神保健看護学会等)でワークショップを開催し、多くの研究者たちとともにその可能性について議論する場を設けたい。 推進方策(2):イタリアの哲学者や哲学プラクティショナーによる文献の調査を継続して行い、それらが実際にイタリア精神保健医療福祉領域のうちにどのように取り込まれてきたのか、現地の状況を正確に追いながら、検証する。また、イタリアの哲学プラクティショナーや精神保健医療領域における実践家などへのインタビュー調査も引き続き行う。そのうえで、イタリアにおける取り組みと日本国内の精神保健医療福祉領域の現状との比較・検討を批判的に行い、最終的に日本国内における精神保健医療福祉領域のうちにどのようなかたちで哲学的対話実践を挿し込むことができるのか、その具体的な方策や日本型の対話実践モデルを提示したい。
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