研究課題/領域番号 |
21K00031
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01010:哲学および倫理学関連
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
薄井 尚樹 関西大学, 文学部, 教授 (50707338)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2022年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2021年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
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キーワード | 潜在的態度 / 本当の自己 / 道徳的責任 / 外部主義 / 自己 |
研究開始時の研究の概要 |
潜在的態度のありようは、近年の測定技術の進歩により、徐々に明らかにされつつある。他方でそのことは、「潜在的態度は本当の私なのだろうか」という、自己理解をめぐる新たな種類の現代的な不安を私たちに生じさせることにもなった。潜在的態度からなんらかの差別的な行動がもたらされるとき、それが本当の私のおこなったことなのかどうかは、その行動の道徳的責任を考えるうえで重要なポイントとなる。それゆえ本研究では、潜在的態度のありようと「本当の自己」という考えをあらためて考察し、そのことを通じて、潜在的態度からもたらされる行動の道徳的責任を語るのにふさわしい「本当の自己」の考えを提案する。
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研究実績の概要 |
本当の自己と(無)意識とのあいだには道徳的責任の判断を通じたつながりがあると、ときに論じられてきた。具体的には、ある判断が意識的であることは本当の自己を反映し、そこから生じる行動に道徳的責任が求められるのにたいし、ある判断が無意識的であることは本当の自己を反映せず、そこから生じる行動に道徳的責任が求められることはない、とされる。今年度はこの論点を潜在的態度に適用することを試みた。すなわち、潜在的態度の意識的ステータスにかんする近年の研究をサーヴェイし、それにもとづいて、潜在的態度が道徳的責任の文脈における「本当の自己」に帰属可能かという問いに取り組んだ。 潜在的態度の「潜在性」は、その研究の歴史的背景から、「無意識」を意味するものとしばしば想定されてきた。潜在的態度が無意識的であることを示す証拠として、多くの人々が自分の潜在的測定の結果に驚きを隠せず、防衛反応を示すことに注目した。しかしこうした証拠は間接的なものであり、さらに被験者が自分の潜在的態度の測定パターンを予測できるという証拠も見いだされてきた。私はこの証拠をめぐる論争を整理し、そこから潜在的態度と本当の自己のつながりにもたらされる論点として、被験者が示す防衛反応は本当の自己説が求める「承認 endorsement」の資格を満たさないのではないか、と論じた。 以上の議論は、日本科学哲学会第56回大会(2023年12月)において「潜在的態度の気づきは自己のありようについてなにを語るのか」というタイトルで発表された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では、本年度の研究計画は以下のふたつの課題に設定されていた。(1)心を外部環境へと拡張する外部主義の考えかたは、道徳的責任の文脈における「本当の自己」という考えにどのような捉え直しを迫るのかを考察する。そのうえで本当の自己もまた外部環境に拡張されうることを示す。(2)これまでの研究をふまえて、潜在的態度と本当の自己のどちらも外部主義の文脈で理解することができて、前者は後者を構成しうることを示す。 本年度におこなった研究は、道徳的責任の帰属における意識的ステータスと本当の自己とのあいだのつながりを背景に、潜在的態度の意識的ステータスをめぐるサーヴェイ研究を通じて、潜在的態度が本当の自己を構成しうるかという問いに取り組むことであった。上記の研究計画をふまえると、本年度の研究は、外部主義についての議論をひとまずおいて、意識的ステータスという観点から潜在的態度が本当の自己を構成しうるかを考察したという点で、研究計画(2)を部分的に遂行したとみなすことができる。 その一方で、本当の自己を外部主義の観点から理解するという、研究計画の(1)の部分については、昨年度にある程度の見通しを立てていたとはいえ、本年度の研究ではあまり進捗が見られなかったといわざるをえない。外部主義よりむしろ、潜在的態度の意識的ステータスに研究の焦点を過剰にあててしまったことがひとつの原因だと述べることができるだろう。しかし本年度の研究は、当初の研究計画には含まれていなかった新たな論点を引き出すことに成功し、研究の豊かさを高めたと述べることもできる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画では、潜在的態度と本当の自己をめぐるこれまでの理論的な考察をふまえて、実際的な社会問題に踏み込むことを予定している。ここで問題となるのは、社会的不正義を考えるうえで、個人の内部に位置づけられる潜在的態度を変えることを重視すべきか、それともより広いかたちで社会的な構造を改革することを重視すべきかという、しばしば論じられてきた対立である。潜在的態度と本当の自己とのあいだのつながりを示し、その両方を外部化することは、この対立構造を解消することに大きな役割を果たすことを示すことが、今後の研究の大きな目標となる。 この目標を果たすためには、少なくとも以下の研究課題を遂行することが求められる。(1)道徳的責任の文脈における「本当の自己」という考えを整理したうえで、その考えを外部主義のもとで整合的に理解できることを示す。(2)潜在的態度と本当の自己とのあいだのつながりを明らかにする。(3)潜在的態度を外部化することは、社会的不正義において個人に焦点をあてるか、それとも社会に焦点をあてるかという問題を擬似問題にすると論じる。(4)最終的に社会的不正義に対してどのようなアプローチをとるべきなのかを提案する。(1)については今年度は十分に取り組むことの出来なかった課題だが、ある程度までの足がかりはできている。(2)については今年度の研究でめどが立ったと述べることができる。(3)については昨年度の研究である程度まで触れてきた課題である。このように、進捗状況はバラバラだが(1)から(3)のいずれの課題にも取り組んでいる途上である。それらをもとに最終的な課題である(4)になんらかの答えを与えたいと考えている。
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