研究課題/領域番号 |
21K00047
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01020:中国哲学、印度哲学および仏教学関連
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
井川 義次 筑波大学, 人文社会系, 教授 (50315454)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | 宋学の西遷 / 宋明理学 / クリスチャン・ヴォルフ / ライプニッツ / 啓蒙主義 / フランス革命 / 『老子』 / 神無き世界の完成 / イエズス会 / 中国哲学 / 『帝鑑図説』 / 張居正 / 儒教・宋明理学 / 『中国帝王の記憶すべき事蹟』 / 王権神授・絶対王政 / イエズス会宣教師 / 東西思想の交渉 |
研究開始時の研究の概要 |
中国哲学と西洋哲学の相互の連関・展開という課題は、古い課題であり続けた。しかし、西洋 哲学研究者によってはほとんど省みられず、中国哲学研究者からも中国哲学研究の主要主題 ではないという理由からあまり省みられることはなかった。そこで本研究においては、そのようにして蓄積された研究成果を踏まえつつ、従来はあまり省みられなかったヨーロッパに当時伝播した中国哲学とその影響の大きさという視点から、実際にヨーロッパに舶載された中国関連文献の調査、それら文献のヨーロッパの哲学者における取り入れと展開、そして哲学者の著述中にどのような形で中国哲学が反映していたかの様相を実証的に分析する。
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研究実績の概要 |
本研究は、東洋哲学が欧米世界にどのように翻訳され且つ理解されたか、ひいては欧米知識人に影響を与えてきた事実について東西双方の関連文献を比較してその内実を解明することを目指しているが、旧年度の研究については、これまでの蓄積にもとづいてより一層解明の歩を進めることができたと考えられる。一つにはとりわけ人間的「幸福」についての儒教情報が、いかに翻訳受容されたかについて一般的紹介書で公表している。 ついで、中国人の明君観と暴虐観に関して歴代の史書に対して注解と評価を加えた明代の大政治家張居正の万暦帝に与えた勧戒書『帝鑑図説』について、そのエッチング図解入りの仏訳書を、ほぼ全訳することができた、またその重要箇所について、漢文本文と張居正の注解似の書き下しを提示し仏訳と照らし合わせることによって、革命前夜のフランス人にどのような形で受容された可塑の傾向性を明らかにすることができた。とりわけ君主・廷臣・后・救助たちの奢侈と国民に対する暴虐の政治が、いかに国家を転覆してきたかを原典を超えて精細に説明していたことが明確となった。とりわけ外国人女性が国家を傾けたとの主張は、オーストラリア人の后マリー・アントワネットの同時代的事蹟と比較するとき直後の革命を誘発する一要因となったであろうことが一目瞭然となる。これについては他の事蹟の解明とともに全文翻訳を目指そうと思う。 最後に老子ないし道教情報が、いかに初期の段階でヨーロッパに翻訳・紹介・受容されたかについて実証的に解明した。その内重要なものとしては類十四世紀も入りでパリの国家図書館から出版されたイエズス会士イントルチェッタを筆頭とする『中国の哲学者孔子』中の道教・仏教情報部分の全文試訳に基づいて、如何なるかたちで道教が紹介されたか実証でき、またシノロジーの諸学者たちによってどのように理解されたかについて、初歩的な研究をすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでのところ、本課題の目標を着実に実現しつつある。一つには中国儒教における賢君と傍訓の情報が木版で公刊された張居正著『帝鑑図説』の、フランス人による解説付銅版画本が、フランス革命前夜1788年にパリで出版された史実について、仏文と、原本の相互対比によって明らかにした。本邦初公開であるといえよう。 さらに『老子』のヨーロッパにおける受容について、『中国の哲学者孔子』の仏教道教紹介文の内実を解明しそれが、ライプニッツやヘーゲル等の諸学者に与えた情報の内実を解明したと同時に、イエズス会士によるキリスト教本意の道教情報をヌケて、文献実証主義に立脚するシノロジーの創始者、レミュザ、ジュリアン等がどのように理解翻訳、評価したかについて、今後に展開するための初歩的解明を行うことができたこのことは今後の東洋思想の欧米世界への影響の実情を一層明確化する基礎固めができたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
上でのべたように、これまで『帝鑑図説』については、その本文全文をほぼ訳出を進めることができたため、これからそれらを推敲・添削を進めてゆきたい。このことについては筑波大学の美術研究者とともに、勉誠出版から『帝鑑図説』の国内外における評価をめぐっての出版物の一部として還元されることが決まっている。そこでは本邦初公開の銅版画版の『帝鑑図説』全図が示され、またその一々について逐次解説を与え、また聖君と暴君の具体例について、『帝鑑図説』原典と、それに対する万暦帝の師父たる張居正の注解とフランス語訳が対比考察されるであろう。 また『老子』の受容に関しては、『中国の哲学者孔子』における道教情報の内重要な箇所について、一層の解明をしようと考えている。またソルボンヌ大学のレミュザとジュリアン子弟の老子・道教観には、見逃すことのできない齟齬が見受けられる。ヨーロッパにおける道教受容史を解明するにはどうしても両者の見解の相違がどこに由来するものかをぜひとも究明しなければならない。これまでの解明から分かってきたのは双方の儒教翻訳、ならびに理解において、ヨーロッパの哲学・神学的な思考枠組に基づく価値観の濃淡が関係していることが分かるとともに、両者が基づいた中国歴代の老死注釈書の選択如何にもつづくことが明らかとなったので、今後も各種文献と対比することで、三次元的立体的なヨーロッパにおける『老子』解釈の受容の後を追跡してゆきたい。またその際より重要な問題となるのは18世紀イエズス会士ノエラスが、商法の形でラテン語全訳した『老子』の翻訳姿勢がどのようなものであったかを解明する必要がある。さらには同時代のオーソドクシーを背景とした満州語訳『老子』も参観していたため、これとの比較考察も行おうと目下考えている。
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