研究課題/領域番号 |
21K00060
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01020:中国哲学、印度哲学および仏教学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
柳 幹康 東京大学, 東洋文化研究所, 准教授 (10779284)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2025年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | 『宗鏡録』 / 無住道暁 / 『沙石集』 / 宗教 / religion / 『哲学字彙』 / 永明延寿 / 一心 / 修証論 / 玄沙宗 / 大慧宗杲 |
研究開始時の研究の概要 |
唐代以前の多元的な仏教を禅の「一心」の立場から捉え直し、禅を中心に一元化の道をたどる宋代以降の仏教の先駆となったのが五代の禅僧永明延寿の『宗鏡録』であった。本研究では『宗鏡録』の核心思想である「一心」とはどのようなものであり、延寿はそれを先行の仏典を用いていかに描きだしたのか、ならびに延寿がそれをもとに教・律・浄土など従来の仏教の思想・実践を具体的にどう読み替えていったのかを明らかにする。
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研究実績の概要 |
三年度目にあたる令和5年度は当初の計画通り『宗鏡録』の「禅による教の読み替え」に対する分析を進めたほか、日本における『宗鏡録』の受容について新たな研究成果を得た。その成果は以下の二つである。 (1)鎌倉期の僧侶無住道暁(1227-1312)は『宗鏡録』を愛読しており、それに着想を得て仏教説話集『沙石集』を編み、そこに和歌陀羅尼説(和歌をインド由来の神聖な語たる陀羅尼と同一視する自説)を記した。無住はこの新説を構築するにあたり、理論的根拠のひとつとして『宗鏡録』の方便観――あらゆる教を等しく禅宗所伝の一心を明かす手立てと見る理解――を援用している。以上の内容は「『沙石集』和歌陀羅尼説とその背景」(『「日本の伝統文化」を問い直す』、臨川書店)として公刊した。 (2)明治期になり「宗教」の語がreligionの訳語として定着すると、その出典として『宗鏡録』が想起された。これは1912年に刊行された『哲学字彙』第三版に見える説であるが、事実とは異なる。実際のところreligionの訳語「宗教」は『宗鏡録』とは関係なしに用いられ出したもので、明治10年代に定着し、同14年『哲学字彙』初版に採録、31年後の第三版になって当時よく知られていた『宗鏡録』の説が典拠として始めて追記されたのであった。なおこれまでの先行研究では『宗鏡録』が中世以降忘却されたと見られていたが、実際には江戸以降もよく読まれており、この見解は修正すべきものである。以上の内容は「『宗鏡録』と「宗教」の語」(『印度学仏教学研究』72-1)として発表した。 この外、『宗鏡録』とは直接関係しないものの、禅宗史上重要な禅僧大慧宗杲(1089-1163)や白隠慧鶴(1686-1769)の研究においても進展を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初予定していた「禅による教の読み替え」に対する分析を進めたことに加え、当初予定していなかった研究成果、すなわち(1)『宗鏡録』と『沙石集』和歌陀羅尼説との関係、および(2)religionの訳語「宗教」の出典として明治期に『宗鏡録』が想起されたことについて新たな知見を得ることができた。このことから、「当初の計画以上に進展している」と考える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は当初の予定通り、『宗鏡録』が禅宗の観点から従来の律をどう読み替えたのかを分析していく。その際、延寿の戒律観を理解するうえで重要な資料『受菩薩戒法』をとりあげ、その訳注研究も行う予定である。 この作業により、従来は凡夫を律するために設定されていた各種規範が、禅宗所伝の一心と不可分のもの――一心を看取するための手段であると同時に、一心から自発的に発揮される実践徳目――として延寿により読み替えられたことが明らかになるだろう。
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