研究課題/領域番号 |
21K00091
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01040:思想史関連
|
研究機関 | 福山市立大学 |
研究代表者 |
桑田 学 福山市立大学, 都市経営学部, 准教授 (20745707)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
|
キーワード | 石炭汚染 / エントロピー法則 / 帝国主義 / ギルド社会主義 / 貨幣改革論 / 富と負債 / ネイチャーズ・エコノミー / 産業革命 / 石炭問題 / 熱力学・エネルギー論 / 経済学方法論争 / 人新世 / 自然のエコノミー / 熱力学 / ラスキン / ジェヴォンズ |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は「人新世」と呼ばれる新たな地質時代、すなわち人類の産業活動が地球の気候と生物圏を根本的に作り変えるに至ったという時代認識の思想系譜を、主に19世紀中葉から両大戦間期のイギリスにおいて展開されたエコノミーとエコロジーをめぐる概念史を軸に解明することを目的とする。併せてそのような知と言説を可能にした科学・技術史的背景、さらにそのような知や言説が19世紀的自由主義の衰退、帝国主義の深化、多様な社会改良思想の展開といった同時代イギリスの思想状況のなかで占めた位置の解明を目指す。
|
研究実績の概要 |
本研究は「人新世」と呼ばれる時代認識の思想的起源を、およそ19世紀の産業革命期から両大戦間期のイギリスにおいて展開されたエコノミーとエコロジーをめぐる思想史を軸に解明することを目的としている。人新世の端緒とされる化石燃料の大量燃焼に依存する「化石経済」の出現を、同時代の人文知や社会科学的な知がどのように批判的分析の対象としてきたのか、という歴史の解明が中心的な課題となる。 初年度は、いちはやく石炭枯渇の問題を論じたW.S.ジェヴォンズ、および大規模な石炭燃焼に伴う環境と社会の劣化について考察したJ.ラスキンの経済思想を中心に分析したが、22年度はこれを踏まえ、両者の問題意識がその後イギリスの社会・経済思想においてどのような形で引き継がれ展開されていったかを明らかにすべく、生物学や物理学の諸原理から経済原理の刷新を試みた生物学者パトリック・ゲデスと物理化学者フレデリック・ソディを中心に検討を行った。 ゲデスについては初年度より着手していたが、今年度はラスキンからの思想的受容とその知的・社会的背景、およびゲデスの生物学研究とその経済学的意味を軸に検討を進め、ゲデスの生物経済学の企図の全体像を明らかにした。ソディについては、放射性研究から経済学研究への転向の背景(帝国主義的戦争と科学動員体制)を明らかにしたうえで、彼の経済学の主著である『富、虚構の富、負債』(1926年)を戦間期のギルド社会主義や貨幣改革論の文脈に位置づけて、その環境・経済思想上の意義について検討した。 以上の検討により、とりわけ「富と生命」を軸とするラスキンのポリティカル・エコノミーのヴィジョンが、19世紀末から戦間期にかけて、協同組合運動を含む広義の社会主義的な動向において、エコロジーとエコノミーを架橋する思想的・実践的な試みの一つの重要な参照点となっていたことを浮き彫りにすることができたと考えている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2022年度の研究についてはおおむね順調に進展していると評価している。当初予定していた思想史的な研究対象(時期や人物)の検討と整理がひとまず完了したことから、それらを単著としてまとめ、年度末に『人新世の経済思想史――生・自然・環境をめぐるポリティカル・エコノミー』を刊行することができた。ただ一方で、新型コロナウイルス感染症の影響や他の業務により、予定していた国外での資料調査については断念せざるを得ず、次年度以降に持ち越すこととなった。また、思想史的検討を踏まえた現代の人新世をめぐる研究動向の批判的分析にまで十分には至っておらず、それが今後の課題となる。
|
今後の研究の推進方策 |
2023年度は最終年度の総括に向けて、主に以下二つの検討を行う。 第一に、これまでの思想史的検討がもつ現代への射程にかかわる検討である。特にゲデスやソディの思想は本国イギリスよりもむしろ、20世紀前半のアメリカで受容と展開がみられるが、それらはL.マンフォードによる都市・技術文明論や、H.オダムらのシステム生態学など多岐にわたっている。こうした足跡をたどりながら1960年代以降の環境思想へのつながりや断絶を考察する。 第二に、上記の論点を含め、本研究の思想史的検討が現代の人新世をめぐる議論にいかなる意味をもつのかについて検討を行う。人新世の概念は自然科学とくに地球システム科学に由来するものであるが、とくにその歴史叙述のあり方をめぐって人文・社会科学からの批判的検討が進んでいる。これまでの成果も踏まえ、当概念をより広い思想史的文脈へ位置づける作業に取り組みたい。 なお上記の研究課題遂行のため、コロナウイルス感染症の状況をみつつ、国内外での資料調査を行う予定である。
|