研究課題/領域番号 |
21K00094
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01040:思想史関連
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研究機関 | 麗澤大学 |
研究代表者 |
花田 太平 麗澤大学, 外国語学部, 准教授 (90817355)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | ジョン・ミルトン / 闘士サムソン / オープンダイアローグ / 感情史 / 対話 / ナラティブ / ハンナ・アーレント / 政治神学 / キリストの受難 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、「キリストの受難」の神学的解体と美学的再構成の過程に着眼することによって、初期公共圏の生成の基盤を明らかにし、「世俗化」の神学的起源を再解釈する。従来は中央集権的な理念型とみなされていた「キリストの受難」が、痛みや労働といったローカルで人間的な経験として社会的に再構成される過程を分析し、近世の宗教社会と近代の世俗社会がどのような次元で連続性を維持しているのかを解明する。 また、近年の感情史とナラティブ論の成果を創造的に融合させることによって、近世思想史が、単なる参照点にとどまらない、脱近代の公共圏の危機と向き合う方法そのものであることを提示する。
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研究実績の概要 |
本年度は、新型コロナウイルス感染症の感染症分類が2類で継続され、感染時の行動制限等のリスクを鑑みて英国の現地調査を見送り、最終年度に予定していた応用的・臨床的な研究をくり上げて実施することとなった。 「身体の語り」を基盤とした初期公共圏の構造を明らかにすることは、現在の脱近代の公 共圏をめぐる問題系を考える上で大きな含意を提示する。そこで生きられた痛みを通して産出される「混沌とした主体」について考察することにより、近代的市民権の中で脱主体化されていた存在の責任や政治的自由の基盤を強化することが可能であるという仮説を立てた。当事者知の復権が目指すものは、専門知の相対化ではなく、宗教的他者をも包摂するような対話的空間概念の精緻化である。本研究の成果は、近世思想史が、脱近代の公共圏の危機と向き合う単なる参照点にとどまらず、危機と向き合う方法そのものであることを示すことを目指している。 以上の目的のために、初年度に明らかにした公的空間形成における対話的主体=当事者性を語り手の「語り口(tone)」が構成しているという仮説の元に、主に「脱近代」を生きる現在日本の若者が抱える存在論的不安やグリーフがどのような表象や言説を通じて表現され、共有されているかを調査した。主にオープンダイアローグの手法であるリフレクティングを使用した対話ワークショップを20回にわたり実施した。 以上の研究成果は、口頭発表「オープンダイアローグと大学教育:当事者と事例をふりかえる」オープンダイアローグ・ネットワーク・ジャパン(ODNJP)2022年度実践報告会, Zoomによるオンライン開催(2023/1/29)で公開した。 また、前年度からの草稿が完成稿へと近づきつつある論文「ミルトンと経済思想」(日本ミルトン協会編『ミルトン研究案内(仮)』春風社、2023年刊行予定)も刊行へ向けて準備が進められている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、新型コロナウイルス感染症の感染症分類が2類で継続され、感染時の行動制限などリスクを考慮しつつ、加えて大学職務の増加と健康上の理由から、予定していた英国での現地調査を見送ることとなった。日本国内で実施可能な研究調査はできる限り進めたが、今回の調査は研究の中でも核となる部分の調査であったため、全体の計画に遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、新型コロナウイルス感染症が感染症分類が5類に移行した点をふまえ、前年度に実施予定でかなわなかった、初期公共性の基盤が従来よりもポリフォニック(多声的)なものであるという本プロジェクトの核の部分を明らかにするために必要な現地調査を実施する。 具体的には、痛みの感情史の見地から、①イングランド内戦期から王政復古期以降の労苦の神学的機能をめぐる論争、②処刑されたチャールズ1世のEikon Basilike(1648-49)と革命派ジョン・ミルトンによる反論Eikonoklastes(1649)に代表される、イングランド内戦期政治的パンフレットにおける王の身体的表象、③詩や劇作品の労働(者)の表象を再解釈することによって、「キリストの受難」の神学的解体と美学的再構成の過程を明らかにする。 近世イギリスにおいては、「痛み」をめぐる公的な表現として選ばれるのは美学的論争や神学的言説であった。とくに苦痛の中にある「他者」をいかに想像力によって再構成するかは「美的判断」(カント)の範疇で検討された。本研究は、まず、エドマンド・バークが18世紀に「崇高 (sublime)」概念として制度化する「痛みの美学化」の起源として、1660年の王政復古以後の「公共性」をめぐるイングランド内戦の記憶の政治と美学上の論争に着目する。次に、それらの論争が、公的な「語り口 (tone)」を形成していく中で、新たな時代の聴衆=市民権が痛みや労働の表象を通じて形成されていく過程を明らかにする。 上記資料の多くを所蔵するBritish Library(ロンドン)やBodleian Library(オクスフォード大学)等のイギリスの大学図書館において現地調査を実施する。 次年度は最終年度であるため、成果発表も並行して進めなければならない。現地調査結果によっては、延期も視野に入れつつ、質の高い成果の公開を目指したい。
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