研究課題/領域番号 |
21K00107
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01050:美学および芸術論関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
沖本 幸子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (00508278)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 翁 / 父尉 / 世阿弥 / 風流 / 開口 / 民俗芸能 / 能 / 鐘巻 / 山伏神楽 / 中世芸能 / 乱拍子 / 猿楽 / 白拍子 |
研究開始時の研究の概要 |
白拍子・乱拍子など中世前期に大流行し、能の起源「翁」などの成立に大きな影響を与えながら、今は滅びた芸能の復活上演をめざして研究を行う。当時の日記、芸論、説話などの諸記録や、書き付けや楽譜、各地の祭りや儀礼の中に残る芸能、現在の雅楽家、能楽師などの伝承と技術を手がかりに、文献学、民俗学、音楽学等の成果を統合し、実際の歌舞として復活させることで、「翁」成立の謎に迫る道を見出すことが目的である。さらに、そうした成果を広く共有するために、文字媒体に留まらない発信方法を模索することも大きな課題である。
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研究実績の概要 |
中世芸能研究として、主に「風流」(趣向を凝らす、が原義の美意識。中世、芸能と深くむずびついて展開した)と「翁」をテーマに研究を進めた。能の研究の中では、長らく民俗芸能の「翁」はほとんど視野に入れられず、本田安次、新井恒易らの先駆的な研究は、長らく能の研究に組み込まれることはなかった。そうした中で、民俗芸能の「翁」の重要性を喚起しつうつ(「翁のなにがおもしろい?」(京都市立芸術大学『祝賀能〈翁〉付〈高砂〉』特別企画:インタビュー&エッセイ、2024年1月)、古態の「翁」には存在しながら、現行の通常の「翁」にはなく、かつ、ほとんど先行研究のない「父尉」について考察を進めてきた。兵庫県上鴨川住吉神社の神事舞や、文書だけが残る岐阜県北方のねそねそ祭、静岡県日向の「翁」の「父尉」を視野に入れながら、大和猿楽の伝書の詞章との比較考察を進めた。そして、かつての「父尉」にあった笑いや滑稽、正月の根引きの松の要素が排除されていく過程と理由について考察した。また、現行の「翁」詞章に編集されるにあたって、「松」の要素が消されていくこと、一方、「松」が世阿弥の祝言能の中で重視されてくことなどから、あえて祝言能(脇能)との差別化を図られていた可能性を指摘、「翁」の編集に世阿弥も加わっていた可能性を示唆した(「翁の魅力ー祝言を超えて」でんおん連続講座特別編「祝賀能〈翁〉付〈高砂〉を考える」 2024年3月14日)。また、「翁」の古態、能の祝言性をたどる中で、「風流」「開口」の重要性を再認識し、春日若宮おん祭の田楽の「開口」や狂言風流についても研究を進めつつあり、「風流」への関心の展開として、「松ヶ崎題目踊と盆踊り」(KYOTO AGORA コモンズ研究会,2023年9月25日)、「盆踊り―逸脱の身体の行方」(よさこい科研研究会,2024年2月3日)など、現代に続く視野の中で発表する機会も得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
「翁」の編集術という観点から、現行の「翁」詞章に、世阿弥の手が入っている可能性を具体的に指摘できたことは、予想以上の収穫だった。また、「翁」を考える上での風流の重要性が再認識されたこと、それが、能の「翁」にとどまらず、風流踊、盆踊りも視野に入れた、現代につながる問題の考察へとつながり、当初の計画にはなかった視野から中世芸能を考え直す機会を得られた点も大きい。
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今後の研究の推進方策 |
膨大な数と量の民俗芸能の「翁」詞章と、大和猿楽に残された詞章とを比較する地道な作業を続けてきたが、今後、音楽、舞踊(所作)面も視野に入れながら、「翁」の編集術を総合的に捉えていくことになる。また、これまでは主に、猿楽の流れを汲むと考えられる民俗芸能の「翁」に注目してきたが、芸能の構造、形式、在り方など、むしろ、田楽や風流の諸芸能など中世芸能全般の中で捉え直す必要を痛感しており、フィールドワークと文書分析を重ねながら、能楽大成以前の猿楽のありようを捉え出したい。
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