研究課題/領域番号 |
21K00108
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01050:美学および芸術論関連
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
小野 貴史 信州大学, 学術研究院教育学系, 准教授 (10362089)
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研究分担者 |
山本 亮介 東洋大学, 文学部, 教授 (00339649)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 音楽的時間 / フィクション / 他筆的芸術 / 意図 / 解釈 / 音楽的時間構造 / 虚構理論 / Failed-Art / 理想的鑑賞者説 / 美的価値判断 / 比較聴取構造 / 音楽美学 / 音楽学 / 文学理論 / フィクション構造 / 時間性 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は音楽理論と音楽美学における時間論を、分析美学や文学理論における虚構理論・物語理論を援用して、虚構構造に生起する横断的な芸術的時間を研究する位置づけとなり、以下の3つの段階を踏まえる。 1)作曲者/作者によって作出された虚構の時間性に着目し、共通構造を明らかにする。 2)音楽と文学の相違点を《語り手》と《代理話者》の機能と位置づけ、理論的に分類する。 3)Kendall Waltonが提唱した試論thoughtwriting 説の音楽芸術への適合可能性を検証する。
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研究実績の概要 |
本年度は音楽的時間を形成する基盤であり、他筆的芸術としてフィクションとしての音楽における意図と解釈に焦点を当ててその構造について研究した。芸術作品の“解釈”に関してはHume、 D.“Of the Standard of Taste”(1757)にはじまり、Levinson、 J.“Artistic Worth and Personal Taste”(2010)、 Lopes、 D. “Being for Beauty”(2017)などを筆頭に、近年再び活発に議論されるようになってきた概念である。 研究実績では、まず、音楽作品における意図の所在について意図主義を論証した(音楽音響芸術研究会2023年度研究大会、口頭発表)。また音楽作品における解釈や消費構造の実例を分析し、音楽における“意図”の一般化を提案した(日本学校音楽教育学会、令和5年度東京・関東支部例会、口頭発表)。さらに教育実践を想定し、特定の音楽作品について生徒間で対話を交わし、さらに生成AIを補助的に活用することによって、複合的な対話型鑑賞を実践し、その結果を分析した論文を発表した。そこでは、鑑賞者が想起する曲想の傾向が生成AIとの対話を経ることによって画一化される点は、鑑賞者が感じた感想や想像を重んじる対話型鑑賞の目指す方向に、ある意味で逆らう結果となることが明らかになった。 音楽は抽象芸術であるから、なおさら作品の成立レベルと作品記述レベルの乖離が生じる領域でもある。従って、鑑賞者の間である程度の共通認識を有することは、作品のスムーズな受容/理解への補助となることも確かである。また、芸術作品における鑑賞者の作品に対する印象や評価は、作者の意図にどの程度従わなければならないのか、という分析哲学的な問題点に到達した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで感染症対策による行動自粛で、研究目的であった音楽芸術(研究代表者)と言語芸術(研究分担者)との文献資料を共有した意見交換と統合的理論分析が困難な状況にあったが、令和5年度はそれらの制限も緩和され、資料共有や双方の学術領域からの意見交換が再開された。
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今後の研究の推進方策 |
フィクションとしての芸術作品を構成する基本的ファクターとなる「意図」が今後のテーマとなった。芸術作品は作者の意図のみならず、鑑賞者の意図や、音楽作品ならば演奏者の意図など、あらゆる意図の集合的要素を持つ。 そうした中で、芸術作品における意図主義の観点から、現実意図主義(Actual Intentionalism)と仮想意図主義(Hypothetical Intentionalism)に関して、音楽芸術と言語芸術の間でテクスト(音楽では楽譜)の存在が焦点化された。 楽譜と作曲者の意図に横たわる問題は、文学テクストと作者の意図の関係とパラレルになっていると予測する。 テクストの意味作用と作者の意図を重ねるという錯誤、さらには作者自体がその錯誤を顛倒的に引き受けるという倒錯が、いわゆる近代芸術のモードであり、作品の創造・受容を支える不合理な論理となっていることが研究者間での共通の問題として浮き彫りになった。
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