研究課題/領域番号 |
21K00115
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01050:美学および芸術論関連
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研究機関 | 獨協大学 |
研究代表者 |
常石 史子 獨協大学, 外国語学部, 准教授 (30332141)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | フィルムアーカイブ / デジタルシフト / 映画保存 / 映画復元 / 映画技術史 / メディア史 / デジタルアーカイブ / デジタル・シフト / 社会実践 / ホームムービー / アーカイブ / メディア・スタディーズ / デジタル・ヒューマニティーズ / 複製技術 |
研究開始時の研究の概要 |
近年、さまざまなメディアにおいて「デジタル化」が浸透した結果、メディアを下支えする「物質」が失われ、各メディアに固有の美学的価値が急激に見えなくなっている。本研究は、過去20年ほどの間に起こった映画というメディアのデジタル・シフトを、映画フィルムのデジタル化、デジタル復元、デジタルアーカイヴ構築といった側面に焦点を当てながら体系的に分析する。最新のメディア研究の理論的成果を参照することによって、隣接諸分野(ラジオ・テレビ放送、出版、美術、音楽など)においても参照可能な、幅広い一般性を持つ議論とすることを目指す。
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研究実績の概要 |
本研究の主眼は、フィルムからデジタルへという現代の我々がまさに直面している大きなシフトによって逆説的に照射される、映画というメディアの本質的な特性について明らかにすることであるが、2年目となる今年度は、その核心となる研究を集中して行う年となった。この段階で重要になるのは、映画史の草創期に次々に創出された、基礎的かつ本質的な技術や表現技法の数々に関する具体的な検討である。こうした中でも特に、1929年前後の映画のトーキー化とともに、無声映画特有の色彩表現が消滅する事実に焦点を当て、トーキー化が音声の記録のみに関わる技術革新ではなく、編集、複製、現像それぞれの領域における数年がかりの変化と密接に関連していたこと、そしてそれが映画フィルムを手工芸品から工業製品へと大きく変貌させる歩みであったことを明らかにした。初期の技術については、これまで日本語で紹介される機会のなかったドイツ語の逐次刊行物、Kinotechnik (1919-1943) を基礎文献として活用して文献学的な骨子とし、さらにこれまで日本およびオーストリアのフィルムアーカイブにおいて積み重ねてきた事例を多く盛り込んだ。この主題については、2022年6月に日本映像学会において口頭発表を行なったのち、翌2月刊行の同学会誌において査読論文として刊行した。 このほか、ジャン=リュック・ゴダール監督が『映画史』およびその関連作品において用いた手法を、実際に作品をカラー・グレーディング用のソフトウェアを用いて分析し、フィルムとデジタルの対比に着目して考察する論考を1月刊行の『ユリイカ 総特集 ジャン=リュック・ゴダール 1930-2022』(青土社)において発表した。 さらに、7月の表象文化論学会第16回大会をはじめとする5件の口頭発表においては、さまざまな研究者から講評を得、筆者の問題意識を多角的に精査する機会となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、論文として完成させるところにまで至っていない事例研究が大量に蓄積しているところから出発しているため、その核となる一部を今年度中に査読論文の形で公表できたことは大きな進捗であったと考えている。 今年度はコロナ禍に起因する渡航制限は段階的に緩和されたが、当初から研究計画に組み込んでいたヨーロッパのアーカイブにおける現地調査は残念ながら実行に移すことができなかった。ヨーロッパの国際学会、国際シンポジウムなどで発表を行うことと資料調査とを一度の渡航で実施するつもりでいたが、年度前半には渡航の見通しが明らかでなく、学会などへのアプライが間に合わなくなったことが第一の理由である。また研究初年度に渡航を断念せざるを得なかったことにより、研究対象の比重をオンラインでの調査が可能なものへ大きく移すことになったが、それが結果的に非常に生産的であることが判ったことも理由のひとつである。 海外調査の代替として、神戸映画資料館に調査に赴き、フィルムの現物の調査や撮影を行なったほか、これまでに自ら携わった事例に関わる画像・映像資料や、すでに収集していた文献資料や映像資料を整理し、分析する作業をさらに進めた。 インターネットを介してアクセス可能なデジタルアーカイブ等をユーザーとして活用しながら、デジタルアーカイブそのものをも調査の対象とする点も昨年度と同様である。今年度はヨーロッパから調査対象をさらに拡張し、日本国内では網羅的に見ることが難しい米国のSMPTE(Society of Motion Picture and Television Engineers)の初期の機関誌Transactions of the Society of Motion Picture Engineers(1916-1928)へのアクセス権を取得し、極めて実りの多い研究を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本年7月の表象文化論学会第16回大会における「European Film Gatewayに見るデジタルアーカイブの可能性と課題」と題した発表では、2008年に立ち上がったEUの映像ポータルサイトEuropean Film Gatewayに着目し、現物資料を保存する機関であったフィルムアーカイブが、デジタルアーカイブとしてその活動を拡張する過程で直面した課題を整理した。そのうえで、その後の十数年で急速に進行した映画産業全体のデジタルシフトを受け、フィルムアーカイブのデジタルアーカイブ化がどのように進行したかを検討し、コロナ禍以降、より一層加速するこの流れにどういった展望を描くべきかについて考察した。この発表内容につき、来年度に書籍としての刊行を予定している。 2023年6月に開催される日本映像学会においては、「Tonbild(音=画)─ドイツ語圏における初期「無声」映画の一形態」と題した口頭発表を行うことがすでに決まっており、これをもとにした論文を年度内に査読論文として刊行して、本研究のもう一つの大きな柱とする予定である。1908年から1911年ごろまでの短い期間に隆盛を誇ったディスク式トーキー(SPレコードとフィルムを同期させる音付きの映画)は、当時としては驚くべき技術的完成度に達したシステムであったが、映画というメディウムはこのシステムを放棄し、同期する音をいったん断念することで、舞台を離れた独自の芸術として自立し得たということを明らかにするものである。 これまでの刊行論文にこれらの新たな成果を加え、博士論文としてまとめる作業も並行して進めており、2023年度中に提出したいと考えている。 最終年度となる2023年度においては、研究成果を明確に形にすることが最も重要であると考えるため、上記2本の論文の刊行と博士論文の完成を最優先事項として取り組みたい。
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