研究課題/領域番号 |
21K00125
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01050:美学および芸術論関連
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
小林 俊介 山形大学, 地域教育文化学部, 教授 (50292404)
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研究分担者 |
大谷 省吾 独立行政法人国立美術館東京国立近代美術館, 美術課, 副館長 (90270420)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 引っ掻き / 削り / 塗り残し / 下絵・旧作の再利用 / 近代日本絵画 / 多層的構造 / 引っ掻き・削り |
研究開始時の研究の概要 |
本研究が対象とする松本竣介や靉光、難波田龍起、伊原宇三郎らによる絵画表現は近年までに高い注目を集めているが、彼らの作品の多くは作品の生成過程そのものが制作の動因となっており、完成した作品のイメージを検討するだけではその特質を適切に把握することは難しい。本研究ではこうした研究上の問題を克服するため、絵画における表現技法、とくにその多層的な構造の活用に注目する。具体的には下絵・旧作の再利用、および引っ掻き、削り、塗り残しといった技法・表現を精査するとともに、その制作過程を光学調査など科学的な検証に基づく再現模写などを通して可視化することによって、絵画表現の動的な過程を浮かび上がらせたい。
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研究実績の概要 |
今年度は以下の調査を行った。1)伊原の滞欧期の情報をもとにしたフランスでの作品・資料調査、2)大原美術館所蔵の福島コレクション関連作品における光学調査、3)須田国太郎作品及び関連資料の調査、4)東京国立近代美術館所蔵の松本竣介《N駅近く》及び関連作品の調査。 1)に関しては、伊原宇三郎が1920年代後半のパリで実見したであろう、あるいは模写したピカソ作品の熟覧と資料調査を中心に行った。とりわけ、ピカソの《タンバリンのある裸婦》(1925年、オランジュリー美術館蔵)、および《静物》(1925年、ポンピドゥーセンター蔵)と2022年に熟覧した伊原作品との技法の比較を行った。また、伊原旧蔵資料を補完するような資料調査によって、伊原がピカソの作品にいつ、どこでアクセスしたかを追うことが多少とも可能となった。 2)に関しては、ピカソ《鳥籠》、ルオー《道化師(横顔)》、松本竣介《都会》について、2022年度に実施できなかったXRF(蛍光X線分析)による調査を行った。 3)に関しては、マックス・デルナーの絵画技法書の影響による多層的構造の形成という観点から東京国立近代美術館、京都国立近代美術館等における須田の主要作品、および京都大学図書館における須田旧蔵書の調査を行い、その成果を第74回美学会全国大会にて発表し、また2024年度の同学会誌に掲載予定である。 4)に関しては、松本竣介《N駅近く》修復過程で裏面から発見された絵画が、作家自身の手により表面を削られていたため、かえって多層的な塗りの構造を知る手がかりとなることが判明し、同時期に描かれた類作(岩手県立美術館、横須賀美術館所蔵)と比較研究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究が対象とする、近代日本洋画において多層的な構造を活用とした画家、および彼らが参照したと考えられるルオーやピカソらヨーロッパの画家について順調に調査を進めている。 研究実績概要1)で言及した内容に関しては、伊原宇三郎が模写したピカソ作品のいくつかを熟覧し、かつその所蔵館に保管される作品の修復時の資料などを閲覧したことによって、伊原によるピカソ作品に対する理解が、イメージ形成のための理解に留まらず、技法や絵画層の構築について非常に正確であることが確認できた。また、それらと同時代のピカソの作品であり、伊原自身も実見したと推測できるピカソ《鳥籠》(1925年)の光学調査の結果は、1920年代後半における技法的観点からの伊原によるピカソの受容理解に厚みを加えると考える。さらに、途上ではあるが、伊原旧蔵のピカソ関連資料を整理に着手したことは、上記の受容の歴史的環境の理解に資すると考えている。本研究の成果は、高階絵里加・竹内幸絵 編『芸術と社会―近代における創造活動の諸相―(仮題)』(2024年)にて発表予定である。 2)で言及した作品に関しては、このたびのXRFによる調査で制作に使用された顔料の分析の手がかりが得られたことにより、昨年度の赤外・紫外線による調査の成果と合わせて、作品の多層的な構造を解明するための条件が整った。 3)で言及した須田国太郎に関しては、作品および蔵書の調査から、須田作品に特徴的な「削り」や「引っ掻き」といった消去的な技法が、下層の活用、すなわち多層的な構造による画面形成に寄与していることが解明された。また2)や4)で行われた松本竣介に関する調査によって、これまで指摘されてきたような松本作品の構築的な性格が、本研究が注目するような多層的な絵画構造によるものであることが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、上記の調査資料の分析を進めるとともに、必要な追加調査を行い、研究成果をまとめる予定である。とりわけ、2)で言及した大原美術館所蔵作品については、XRF等による顔料分析等の成果もふまえながら、作品の多層的な構造を解明するとともに、それが作品における造形言語の形成にどのように寄与しているかを解明したい。
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