研究課題/領域番号 |
21K00129
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01050:美学および芸術論関連
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
太田 純貴 鹿児島大学, 法文教育学域法文学系, 准教授 (90757957)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | ワンダ・ストローヴン / スクリーノロジー/スクリーン・スタディーズ / 回転メディア / フットメディア / 自転車 / ピードスコープ / ユッシ・パリッカ / メディア地質学 / メディアと環境 / メディアの物質性 / 未来の化石 / メディアアートと地球 / ブライアン・マッスミ / 針尾通信所 / メディアの地質学 / 田中久重(からくり儀右衛門) / ものづくりとメディア文化 / メディア文化と化学 / メディア考古学 / トポス / 時間錯誤性 / エルキ・フータモ / メディアアート |
研究開始時の研究の概要 |
従来のメディア文化研究を方向付けてきた大枠は、近代的な進歩概念に裏打ちされた直線的で目的論的な発展史観であった。それは、いわば「新しさ」を焦点としてきたメディア文化研究といえる。それに対して、一九九〇年代ごろから勃興しだすメディア考古学という発想・手法は、メディア文化の循環性や多様な時間の様態に注目し、新たなメディア文化研究の対象やあり方を提示することを試みる。本研究はメディア文化研究としてのメディア考古学の方法論的可能性を、主に時間の様態や同時代の思想・視覚文化論といった他分野との関係の追求を通して、浮き彫りにするものである。
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研究実績の概要 |
本研究はメディア文化研究としてのメディア考古学の方法論的可能性を、主に時間の様態や同時代の思想・視覚文化論といった他分野との関係の追求を通して、浮き彫りにするものである。 本年度は、ユッシ・パリッカ『メディア地質学』とエルキ・フータモ『メディア考古学』の議論を比較しながら、「『メディア考古学』と『メディア地質学』の距離」と題して、メディア考古学の可能性を研究会「メディア考古学の現在」で発表した。またフータモは、メディア考古学と並行して「スクリーン」を焦点とした「スクリーノロジー(Screenology)」の議論も主導している。このスクリーノロジー(スクリーン・スタディーズ)とメディア考古学をテーマとした研究会「メディア考古学とスクリーン・スタディーズ」を主催し、Pedoscopeのようなロストメディアに触れつつ自転車(文化)を、メディア考古学とスクリーノロジーの交差点として位置付け、さらには「回転メディア」 と「フットメディア」という二つの問題系から捉える試みを発表した。 また、フータモを招聘した「Screenology, or Media Archaeology of the Screen」も開催した。 上記に加え、パリッカ『メディア考古学とは何か?』の書評、映像研究者のワンダ・ストローヴンによるメディア考古学の系譜を辿った論文の下訳の完成、地域の映像文化をメディア考古学的見地から扱った「Afternote 山口市 映画館の歴史」展(山口情報芸術センター)の調査なども行った。 前年度の成果を踏まえて本年度に取り組んだ研究成果には、メディア考古学的発想・射程の批判的検討、メディア考古学的発想を用いた具体的なメディア文化の分析、メディア考古学の系譜の解明という意義・重要性がある。また、今年度行ったメディア文化に関する情報・資料収集は、次年度の研究の土台となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はメディア文化研究としてのメディア考古学の方法論的可能性を、主に時間の様態や同時代の思想・視覚文化論といった他分野との関係の追求を通して、浮き彫りにするものである。 とりわけ本研究開始時のCovid-19の影響や書籍・渡航費の高騰などのため、海外調査や研究成果の国際的な発展や情報発信には制限がかかってしまった。 その一方で、上述のメディア考古学の方法論的可能性の追求という意味では、メディア考古学の新たな展開を示すユッシ・パリッカ『メディア地質学』の翻訳および関連業績、エルキ・フータモのメディア考古学的発想を援用した具体的なメディア文化の対象(自転車やPedoscopeなど)に関する発表や、それらを包含する「回転メディア」「フットメディア」といったより大きな問題系を仮説的にではあるが設定できたことなどにより、研究を一定程度進めることができたように思われる。 また、Covid-19による諸制限も緩和されたことで、国内外の研究者との交流が復活し、知見や議論を以前よりも活性化させることができ、フータモのトポス概念が導入されるメディア文化研究の歴史的文脈の重要性などについても一定程度の見通しを持つことができた。 以上の理由から、(2)おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策は、トポス概念を中心にフータモの議論を読解していくと同時に、Richard Grucin+Jay David Bolter『Remediation: Understanding New Media』(MIT Press, 2000)におけるRemediation概念との比較を行う。その際には、『メディア地質学』における深い時間概念(長大な時間尺度)をめぐる議論、アビ・ヴァールブルクの美術史・視覚文化論関係の議論に加え、 Grucin『Premediation: affect and mediality after 9/11』( Palgrave Macmillan, 2010)などの議論も視野に入れながら、トポス概念の射程を画定する研究を遂行予定である。 並行して、今年度に提示した「回転メディア」「フットメディア」という着想も多角的に検討・洗練させていく。 Covid-19による諸規制も緩和されたので、国内外の関連施設で調査を積極的に実施する予定である。まずは、国内の技術博物館や自転車博物館といった施設での調査を想定している。これまで収集した九州内のメディア文化に関する資料も、メディア考古学的な観点から整理を行なっていきたい。 2023年2月に翻訳したユッシ・パリッカ『メディア地質学』(フィルムアート社、2023年)などを契機として他分野の研究者と議論を行っているが、領域横断的な発想を展開できそうな視点がいくつか浮かび上がってきた。具体的には考古学(ごみ)や社会教育(岸本與の活動)といった分野とメディア文化を交差させるような視点である。今後はこのような領域横断的な視点も、他分野の研究者と連携しながらより明確化・具体化していく予定である。
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