研究課題/領域番号 |
21K00133
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01050:美学および芸術論関連
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
横山 千晶 慶應義塾大学, 法学部(日吉), 教授 (60220571)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
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キーワード | モリス商会 / 実業学校法 / slop-shop / sweated labour / unfortunate / Anti-Slop-Shop League / Industrial Schools Act / Industrial Schools / ヴィクトリア朝の児童貧困問題 / クリミア戦争と家庭の貧困 / ジョン・ラスキン / 唯美主義 / ウィリアム・モリス / ロイヤル・ウィンザー・タペストリー / ストリート・アート / パンデミック / ダヴコット・スタジオ / ロンドンの労働者大学 / 大学拡張運動 / 官立デザイン学校 / ラスキン美術学校 |
研究開始時の研究の概要 |
19世紀イギリスの芸術教育を、実践教育、教養教育、デザイン産業の関連の中でとらえなおす。19世紀イギリスの芸術教育には、官立デザイン学校に見られる実践教育、労働者大学や大学拡張運動の教育に見られる教養教育、モリス商会や手工芸ギルドのような職人の育成などの具体的な機関やシステムが存在するが、それらを独立したもの、あるいは相反する教育思想の中でとらえるのではなく、互いに連携し合って大きな芸術教育の波を作っていったネットワークとしてとらえなおすことを目指す。そして現代の私たちの芸術教育にとっての意義をそのネットワークの中に見出すことを最終目標とする。
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研究実績の概要 |
本年度は、主に二つの調査を進めた。まず、去年まで取り組んでいた児童の貧困対策としての実業学校法の改正についてさらに深く調査を行った。1857年の実業学校法は、1861年に改正されたが、その中での議論をハンサード(議事録)を今回も調査することで、より詳しく調べるほか、1844年度制定の児童を対象とした徒弟制に関する法律と1847年の全般的連合勅令の公布により、徒弟制度がより明確に規定されていった背景をも調査した。これらの法律の制定により、モリス商会が若年層の少年たちを徒弟として実業学校から雇い入れることが容易となり、商会の徒弟制度を経た職人たちが、のちに英国の手工芸を支える存在となった様子をより明確に証明した。 もう一つの調査は、女性たちの手仕事と貧困の関係である。19世紀にドレス、制服、シャツ、帽子、靴の製作は、そのほとんどを女性や年端の行かない子供たちの手仕事が支えていた。このような既製服を売る店は一般にslop-shopと呼ばれたが、苦汁労働の末に身を持ち崩してしまう「堕ちた女」を生む「社会悪」として批判されることになる。やがて、搾取の末に身を持ち崩す女性たちは、「不運な者」として語られるようになるが、この言葉は、堕落の原因は女性たちにあるのではなく、低賃金と劣悪な労働環境こそが問題であるとの視点に基づいていた。このような社会悪の改善のための組織として19世紀半ばに結成されたのがThe Committee of Reformatory and Refuge Unionである。この組織を土台として結成された「廉価既製服商反対同盟」は、新たなslop-shopを運営することで、安価で高品質の商品を保証する人道的な労働の在り方を模索した。 ヴィクトリア朝の衣料製作の実態と改善の調査は、21世紀の衣服製造の搾取の根源につながる重要なテーマとして、来年度も続けていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、昨年度の調査に基づいてさらに調査を進めた成果を、9月16日にACDHT 2023 (Asian Conference of Design History and Theory)の国際会議と9月30日開催のデザイン関連学会で発表した。また、19世紀の児童貧困問題と法律、およびデザイン・インダストリーの関係は、2024年2月7日にマンチェスター・メトロポリタン大学で開催されたNineteenth-Century Art, Community and Educationの学会に招待されて発表する機会を与えられ、ほかの発表者との意見交換ができたのみならず、学会のスタッフと発表者の協力を得てマンチェスターにて関係資料を調査することができた。これらの成果は今までの調査と共に整理して、年度末に論文にまとめることができた。 昨年度から準備してきた国際会議、“Building the Future: John Ruskin and the New Role for Design in Japan”は、世界中のジョン・ラスキン研究者たちがかかわる教育慈善団体、聖ジョージ・ギルドのイギリス本部との共催で10月7日に行い、日本におけるジョン・ラスキン研究の動向、および日本のソーシャル・デザインの実例とそこに見られるラスキンとモリスの影響を紹介することができた。その後、この国際会議で交わされた議論を踏まえた調査の成果を、11月25日に「社会福祉とアート研究会」にて発表した。 またヴィクトリア朝における女性の苦汁労働とその改善運動については12月16日に開催された第8回ウィリアム・モリス研究会にて発表した。その内容は、今後論文にして発表する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は今回の研究テーマの最終年として、昨年度より取り組んでいる手仕事と福祉の実践と、ジョン・ラスキンやウィリアム・モリスを中心とした芸術教育と手工芸活動がその実践にどう関係しているのかを引き続き調査する。 また労働者大学と実業学校以降のラスキンとモリスの教育実践の動向と影響を調査し、19世紀とそれ以後の芸術教育に与えた影響を調査するのみならず、現在の聖ジョージ・ギルドにつながる教育活動や福祉実践の中にその影響を跡付けていく予定である。具体的には、ギルドが始めたBig Drawという描画キャンペーン、および精神的なトラウマを抱える退役軍人や自死で家族を失った人々を芸術を通じて支えていく試み、および刑務所に収容されている人々を手工芸を使って自律と自立へと導いていくエンパワメントの実践などである。 また、日本での動向も2024年の研究の視座に入れていく。2024年度秋に一般市民に向けて開所される大阪ラスキン・モリスセンター所蔵の資料の研究を進めながら、大阪大学美学研究室主催で2024年9月20日から10月20日にかけて開催される「今に生きるラスキン」の展覧会、およびその一環として行われる国際シンポジウムの運営メンバーとして、現代におけるラスキンとモリスの意義を、次世代に向かって訴えていく予定である。
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