研究課題/領域番号 |
21K00155
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01060:美術史関連
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研究機関 | 国立歴史民俗博物館 |
研究代表者 |
島津 美子 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 准教授 (10523756)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2023年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | 手彩色写真 / 輸入合成顔料 / エオシン / メチルヴァイオレット / 近代絵具 / 絵具 / 染料 / レーキ |
研究開始時の研究の概要 |
日本の製造業の近代化は、明治期の化学工業の発展によるところが大きい。現代においては美術資料として扱われる当時の錦絵、写真、印刷物などは、欧米の化学工業の導入とともに製造技術が変化し、新たな輸入材料も用いられ始めた。そのため、例えば、明治期に作れられた錦絵の絵具には合成材料が用いられたと言及されることがしばしばあるが、実際の分析調査の事例は限られている。本研究では、錦絵やモノクロ写真の手彩色に用いられた絵具、石版印刷に用いられたインクなどを対象とし、19世紀の絵具の素材について明らかにすることを目指す。
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研究実績の概要 |
日本では、江戸後期から明治初期にかけて、近代化学工業の発達により欧米で多用されるようになった合成顔料が導入、使用されるようになったといわれている。その実態を明らかにするため、昨年度に引き続き、明治中頃の手彩色写真に用いられた絵具素材について調査を実施し、とくに有機質の顔料の同定を試みた。 手彩色写真に用いられた絵具の色は、赤、青、緑、黄、紫の5色がほとんどで、青や緑は空、海、植物など風景や背景の着彩に用いられ、赤、黄、紫は着物や家財道具などに用いられる傾向が認められる。本年度の調査により、19世紀末以降、有機合成化合物として、赤のエオシン、紫にメチルヴァイオレットを用いた事例を確認した。しかしながら、こうした合成色料は単独で使われたのではなく、たとえば、濃い色調の赤色部分には古来使用されてきた水銀朱や鉛丹の併用が認められた。 また、錦絵では、幕末明治期に従来の赤絵具;ベニバナ・水銀朱・鉛丹・ベンガラに加えて、輸入のカーマイン(洋紅:カイガラムシから抽出した赤色色素を主成分とする)が単独、あるいは混合して用いられるようになったことがわかっている。その後は、合成材料であるエオシン、明治中頃以降には合成染料の第2世代といわれるアゾ系の色料が使われるようになったとものと考えられる。青には、主に1830年以降に汎用化したプルシアンブルーの利用が認められるほか、紫には、先行研究により江戸末期頃からプルシアンブルーと赤あるいは合成の紫色料を混合した絵具が用いられたことが示されていた。今回、明治期の錦絵において、実際に合成有機化化合物であるフクシンとメチルヴァイオレットが紫色箇所に用いられていることが明らかとなった。 彩色写真という新たなメディアと従来の錦絵の双方において、合成材料の使用に一定の共通性が認められる一方で、前者にも絵画や錦絵から引き継がれた絵具が使われていることがうかがえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年度目は資料および文献の調査を推進したため、検討材料を多く入手できた。データの解析ならびに解釈に若干の遅れがあるが、研究全体としてはおおむね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までに収集した分析データを整理、解析し、文献調査の結果と照合する。これまでの文献調査により、明治期以降に発行された絵具の素材に関する記述内容のほとんどは、外国からの知識の輸入であって、実際に用いられた絵具や使用方法については記載されていないことがわかってきた。分析データとの照合により、どの記述内容が実態に即しているかを精査するとともに、分析結果に基づいた絵具使用の実態についてまとめる。
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