研究開始時の研究の概要 |
これまでイスラーム写本絵画の研究は, 描かれたモチーフの解明や絵画様式の編年を中心とし,絵画史全体の流れを把握することを目的として取り組んできた。そのため,これまでの研究の主流は,様式の特徴に地域性を分析するものや,特定の画家の表現法やパトロンの趣向の解明,単一写本における絵画の特異性や重要性を指摘する研究であり,図像文化を体系的に捉える動きは消極的であった。本研究では, 世俗性の特質を体系的に検証し, 大衆文学のなかで醸成された世俗性の表現が絵画で伝統となって発展する歴史的過程を検証する。また, 聖性の表現との比較分析から, イスラーム美術史のなかでの聖と俗の絵画表現の諸相を明らかにする。
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研究実績の概要 |
2022年度の研究は新型コロナウイルスの世界的感染拡大の影響で、国外での調査は断念せざるを得ない状況であったため、可能な限り、関連する出版物の収集や海外の美術館・博物館・図書館などと連携して情報の収集に尽力した。 本研究課題の遂行において、イスラーム美術の具象表現(とりわけ人物表現)が研究対象となるため、重要な先行研究をいくつか抽出し、詳細な分析を試みること、特定の研究者との意見交換を積極的に行い、研究の方向性や重要性を再確認することを最優先課題とした。 その中で、デンマーク・コペンハーゲンのディヴィッド・コレクションで2017年に開催された<THE HUMAN FIGURE IN ISLAMIC ART, Holy Men, Princes, and Commoners>においてイスラーム美術の「聖性」と「世俗性」が一つの論点になっていることに着目し、本展覧会を主催したディヴィッド・コレクションのフォルサック博士およびメイヤー博士と2023年2月に意見交換会を実施し、イスラーム美術における聖性と世俗性について議論を行った。また、ディヴィッド・コレクションが所蔵する作品をもとに本研究課題を今後進めていくことについて同意を得ることができた。 2022年度は上記のとおり、資料収集と意見交換の場を積極的に持つことを最優先としたため、まだ研究成果を発表するまでには至っていないが、2023年度以降の研究を大きく前進させるための準備期間としては大変有意義なものとなっており、研究は順調に進行していると考える。
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