研究課題/領域番号 |
21K00228
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01070:芸術実践論関連
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
今井 祐子 福井大学, 学術研究院教育・人文社会系部門(総合グローバル), 准教授 (00377467)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2021年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
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キーワード | 美術史 / 陶磁史 / セーヴル磁器 / 芸術産業 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、硬質磁器の装飾法を増やすために19世紀にフランスのセーヴル製作所で開発された新硬質磁器(「新磁器」と呼ばれる新しいタイプの硬質磁器)の装飾表現を取りあげ、特に盛絵具(釉薬の上に盛り上げて塗り付ける上絵具)に注目し、盛絵具と他の装飾法との併用の実態とその相乗効果、および盛絵具を用いた装飾の様式的特徴を明らかにすることを目的とする。 新硬質磁器では複数の装飾法が併用されているが、その技術や装飾表現の幅については未だ詳らかになっていない点がある。本研究では、19世紀末から20世紀初頭にかけて鑑賞陶磁として製作された新硬質磁器で盛絵具がどのように活用されていたのかを検証する。
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研究実績の概要 |
令和5年度は国外調査を行って有意義な情報を得た。カンペール美術館では、セーヴル磁器に関する作品観察(展示室内で24点)と作品調査(収蔵庫内で12点)を行った。ディジョン美術館では、監修者の解説付きで企画展(フランスで収集された東洋美術コレクションと関連作品)を見学し、本研究と関係性の高い作品(中国の軟彩磁器とそれを模倣して1883年頃に作られたセーヴルの新硬質磁器)を観察した。マコン美術館では、常設展示されているセーヴル磁器を観察してから、2011年に同館で開かれたセーヴル磁器展(同館に寄託された作品)の図録を購入し、その寄託品に関する文献調査を行った。セーヴル陶磁都市では古文書館で文献調査、美術館で作品観察を行った。 その結果、作品を実見する前に考えていた「盛絵具と他の装飾法の併用法」に関する類型(5類型)が誤りであることがわかった。写真では盛絵具装飾のように見えたものが、そうではないことが判明したからである。グラン・フ(高火度)で焼成される釉上彩、釉下彩、パット・シュル・パット(泥漿装飾)とプティ・フ(低火度)で釉上に焼き付けられるガラス質の盛絵具との区別は、やはり写真では判断しずらいことが理解できた。 少なくともカンペール美術館とマコン美術館での作品観察からは、セーヴルの新硬質磁器における「盛絵具と他の装飾法との併用法」は、次の3種類に大別できると思われる。1)器面全体に透明性のグラン・フ色釉を塗って焼成し、その上に透明性の盛絵具で装飾文様を描いたもの。2)白磁の上に透明性の盛絵具で動植物の文様を描いたもの。3)多くの装飾技術を用い、複数の装飾法と盛絵具を併用したもの。1)と2)では主文様が盛絵具で描かれ、文様の輪郭はシャープである。3)では主文様は盛絵具で描かれない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度に実施した国外調査では、カンペール美術館で作品をじっくり観察できたことに加え、19世紀末から20世紀初頭にかけて、セーヴル製作所がフランス国内の28の地方都市や地方美術館にセーヴル磁器を寄贈していたことが分かり、関連文書の一部を確認できた点が主な収穫であった。しかし、技法によって装飾効果が微妙に異なるため、その違いを見分ける能力をつけるにはより多くの作品を観察する必要があると感じた。その際の留意点としては、以下の点を挙げることができる。 グラン・フの釉上彩はいわゆる二度焼成イングレイズ(釉面上に絵付けしたものが、焼成中に釉中に沈み込んだもの)なので、その色は盛絵具と同じように光沢と透明性を兼ね備えた色だが、文様の輪郭が柔らかで絵具が釉中に広がって滲んでいる場合もあるので、この点で盛絵具装飾と区別できる。 パット・シュル・パットでは白土や色土の上に施釉する。白土を薄塗りして文様を描くと、磁土の半透明性を活かした装飾となる。しかし、白土を厚塗りして描いた文様や、色土を用いた色地や文様の色は透明性ではない。パット・シュル・パットと盛絵具ではともに浅浮彫り状の装飾が施されるが、前者の文様の輪郭は後者のそれほどシャープではない。それは原則、パット・シュル・パットは釉下にあるからである。 グラン・フの釉下彩とパット・シュル・パットではともに生素地の上に絵付をし、その上に透明釉を施す。釉下彩で用いる絵具とパット・シュル・パットで用いる色土はともに土に顔料を加えて作られるが、前者には後者よりもはるかに多くの顔料が含まれている。なので色を強める際には、釉下彩では厚塗りする必要はないが、パット・シュル・パットでは厚塗りが必要となる。よって、濃厚色の部分の厚みから、釉下彩とパット・シュル・パットを区別できる。
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今後の研究の推進方策 |
1882年と1905年にセーヴル製作所からマコン美術館へ寄託されたセーヴル磁器(1872年から1905年までの間に作られた作品)に関しては、同館職員の配慮により、文書(マコン市立古文書館所蔵)のコピーを閲覧させていただいた。カンペール美術館への寄託品に関する文書はカンペール美術館に保存されており、近くそのコピーを提供してもらうことになっている。2011年にマコン美術館で開催された展覧会の図録には本研究に有益な研究成果が記載されているため、今後はこれを活用して本研究を進めたい。同館にある寄託品については今後、その一部を調査させてもらう予定である。 そして、以上のカンペール美術館とマコン美術館に寄託されているセーヴルの新硬質磁器に関する調査に基づいて、グラン・フの釉上彩、釉下彩、パット・シュル・パットとプティ・フの盛絵具について、それぞれの装飾効果を示したうえで、盛絵具装飾で主文様を描いている作品の様式的特徴、および「盛絵具と他の装飾法を併用」することで得られる相乗効果を明らかにしたい。
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