研究課題/領域番号 |
21K00255
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01080:科学社会学および科学技術史関連
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研究機関 | 金沢工業大学 |
研究代表者 |
夏目 賢一 金沢工業大学, 基礎教育部, 教授 (70449429)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | 日本工学会 / 日本建築学会 / 日本建築士会 / 技術者倫理 / 社会的責任 / 時局対策 / 民防空 / 倫理規程 / 土木学会 / 職業倫理 / 報国 / 国民防空 / 公的使命 / 工学系学協会 / 国家主義 / 民主主義 |
研究開始時の研究の概要 |
日本は第二次世界大戦前後で国家主義から民主主義へと移行し、社会全体の優先事項が国家から一般市民へと大きく変化した。技術業・工学分野でも、産業報国から産学協同までさまざまな協力が訴えられたが、その基本認識は戦前と戦後で大きく変化したと考えられる。この認識の変化について、これまで科学者と民主化を対象とした研究は多数発表されてきたが、技術・工学分野についてはほとんど研究されてこなかった。そこで本研究では、近現代日本の技術者・工学者における公共性への認識の変化を、日本工学会が組織された1879年から占領期が終わった1950年代までの期間における工学系学協会の言説を調査・分析することで明らかにする。
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研究実績の概要 |
日本工学会や土木学会では、1938年頃から時局に合わせた報国が工学者の責任として問われるようになり、とくに日本工学会において1939年に時局対策懇談会が組織された。昨年度の研究でこの経緯に注目するようになったことで、今年度はまず、日本工学会が1938年に創刊した『工学と工業』の資料調査を中心に時局対策懇談委員会とそこから展開された防空座談会の活動を手掛かりに研究を進めた。その結果として、建築学会が民防空に関して主体的に活動を展開していった様子が明らかになってきたため、とくに工学者・技術者の社会的責任という観点から同学会の「都市防空に関する調査委員会」の活動についての資料調査と分析を進めた。そして、これらの研究成果を日本科学史学会および科学技術社会論学会の年会でそれぞれ発表した。当時、日本工学会では産学協同による国策への協力が報国として工学者の社会的責任とされていた。そのような責任において、建築学会の委員たちは空襲における木造都市の本質的危険性を専門家として十分に認識していたが、軍事技術の発展や戦況の評価が難しく、建築物の防空対策も進まない中で、市民に対して空襲で予想される惨禍を警告しながら、その対策としては不十分な防火改修を精神論に帰着させていた。この建築学会の事例は、現代においてもリスク評価とリスクコミュニケーションの問題として学ぶところが大きいと考えられる。これらの研究成果を、アメリカで開催されたAPPE(実践・専門職倫理学会)の年次大会で発表した。さらに、建築学会の事例研究を進める中で、日本建築士会が展開したプロフェッション運動が日本における技術者倫理の最初期の事例として極めて重要であることに気づき、この分析結果を日本技術士会の事例とも比較する論文を日本産業技術史学会『技術と文明』で発表した。この他、電気学会と照明学会についての資料調査も進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
1930年代から太平洋戦争後に至る時期の工学者・技術者の社会的責任や倫理観についての認識の変化を明らかにするために、昨年度に続いて学協会の資料調査を進め、とくに日本工学会の『工学と工業』、電気学会『電気学会雑誌』、照明学会『照明学会雑誌』、建築学会『建築雑誌』、日本建築士会『日本建築士』などを重点的に調査した。さらに戦前における日本建築学会の防空対策への取り組みについて、東京都公文書館の内田祥三文庫や、防衛省防衛研究所の関東防空演習資料や巽良知文庫(東部防空司令部・防空施設研究会に関する資料)などの調査を進めた。建築学会「都市防空に関する調査委員会」の活動を評価するためには、民防空についての多岐にわたる資料の体系的分析が必要となり、予想をはるかに超えた労力と時間がかかっている。そのため、本研究では日本工学会に所属していた主要12学会の網羅的な資料調査を目指しているが、分析を終えた学会数からすると、研究の進捗は遅れている。他の学協会の予備調査から、建築学会の事例が本研究テーマにおいてとくに注目に値する重要な事例になると考えているが、進捗については予断を許さない状態である。なお、研究の成果は二つの国内学会と一つの国際学会の年会で発表し、さらに学会誌で論文発表できたので、研究発表の進捗としてはおおむね良好であろう。当初計画では三つの国内学会での発表を予定していたが、そのうち日本産業技術史学会については年会の実行委員長になったこともあり発表は断念した。なお、世界的な物価上昇の影響などによって当初予算での国外出張が難しくなったため、国際学会での発表のために前倒し支払請求をおこなった。そのため、本年度の研究は希望通り進められたが、次年度の計画には変更を余儀なくされている。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定通り、日本工学会に所属する主要学会について残りの学会の分析を進め、さらにその成果発表も進める。現在、建築学会「都市防空に関する調査委員会」に関する論文投稿を準備中であり、まずはこれを早期に終了させる。この建築学会の事例分析において、敗戦と民主化に際した工学者たちの認識の変化に対して新しく信頼性の高い理解を与えられるかどうかが本研究全体にとって大変重要になる。次に、この建築学会の研究成果を踏まえて、照明学会の分析を進める。照明分野では、とくに1930年代から明灯明視運動として展開された健康面や文化面に関する科学的指針と灯火管制として展開された防空上の国家的指針とのジレンマに注目している。なお、昨年度に前倒し支払請求をしたことで、今年度の研究では当初の計画通りの予算額が確保できず、学会発表(とくに国際学会)に関わる出張には制約を受けることになる。基本的に、まずは資料調査などの研究そのものにかかる支出を優先し、成果発表については残額での可能な限り実現していきたい。
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