研究課題/領域番号 |
21K00264
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02010:日本文学関連
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
田中 則雄 島根大学, 学術研究院人文社会科学系, 教授 (00252891)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2025年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 地方実録 / 実録 / 近世小説 / 日本近世文学 / 鳥取藩 / 飢饉 / 一揆 |
研究開始時の研究の概要 |
近世の実録(実録体小説)には、全国規模で流布した作がある一方、その事件の起こった地元で作られ伝存した〈地方実録〉がある。地方実録は最初に生成する際、地元における実説に即して記述される傾向が強い。然るに時間が経過すると、改変増補がなされ虚の要素が増大するといった「展開」が見られるようになる。 地方の実録作者たちがこのような制作方法を習得した基盤には、実録本の筆写や集書、貸本屋を通じた読書といった享受の営みが存したと考え得る。本研究では、展開と享受という観点に沿って地方実録の特色・意義を考究する。
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研究実績の概要 |
鳥取藩政資料及びその周辺に位置する資料群を調査した結果、藩士の起こした事件は、『家老日記』など藩の公的記録に書記されるにとどまらず、同時に関係者とその周辺に語り伝えを発生させ、その内容がやがて諸種の文献の中に書き留められていったことを把握した。またそうした語り伝えの中では、実説に対する改変増補が行われ、事件や人物への独自の解釈や評価がなされることも起こっている。これらは、実録(実録体小説)として書物の形態を整えるまでには至っていないものの、実録の生成・展開と同様の現象が生じていると捉えることができる。 この観点から、鳥取藩初代藩主池田光仲在任時代、寛永9年(1632)―貞享2年(1685)に起こった4つの刃傷事件が、如何に語り伝えられ書き留められたか、その様相について考察した。 そのうち、寛文6年(1666)に起こった高浜権右衛門・西田小左衛門喧嘩の事は、『家老日記』に記述するところが当時実説と認識されていた内容であると思われるが、1700年代半ばの『因府録』『雪窓夜話』では、異説が記される。この間の時期において、藩関係者の間で語り伝えが行われ、その中で変容が生じたものと見られる。そこでは、両人の言動の詳細や人間性などへの言及が増補されている。 天和2年(1682)に起こった深尾角馬による百姓三人斬害事件は、池田光仲の側室厚恩院による語り伝えを経て、1800年代に入って成立した別本『雪窓夜話』では、深尾が事件を起こすまでの詳細な経緯が増補されている。ここにおいても、藩内で長い年月にわたって話が伝承されていった具体的様相を知ることができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に考察した事例に加え、近世前期鳥取藩における事件の関連資料に即して、地方出来の事件を題材とし、実説から実録的記述が生成し展開していく様相の解明を進めることができた。 また、藩の公的記録の如き歴史文書の記さない、事件の詳細部分や背後の事情について、かかる実録的記述を手掛かりに究明できる可能性を示すことができつつある。
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今後の研究の推進方策 |
鳥取藩の事例に典型的に見られる如く、藩の公的記録等の周辺に、関係者による語り伝えが発生し、それらが年月を経て文献に書き留められていったことが把握できる。そこには当然ながら、誤伝や虚構の混入もあるが、その時代その人物を知る人による語りに依拠する部分が大きいと認められる。今後は、この観点に即して、他の藩の事例をも取り上げながら検証していく。
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