研究課題/領域番号 |
21K00278
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02010:日本文学関連
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研究機関 | 京都女子大学 |
研究代表者 |
大谷 俊太 京都女子大学, 文学部, 教授 (60185296)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 近衛 / 前久 / 信尹 / 信尋 / 尚嗣 / 覚書 / 聞書 / 和歌 / 陽明 / 近衛家 / 注釈書 / 抜書 / 伝授 |
研究開始時の研究の概要 |
陽明文庫一般文書中の文学関係資料のうち、室町末期・江戸初期の近衛家四代、前久・信尹・信尋・尚嗣の手になる聞書・覚書・抜書を対象とする。一つの聞書だけを取り上げるのではなく、覚書・抜書など片々たる資料に至るまでの悉皆調査に基づき網羅的・実証的に全体像を把握する。自筆の講釈聞書については翻字・考察を行い、他の人物や場における講釈聞書と突き合わせて考察し、注釈史への位置づけを行いつつ、それら聞書・覚書・抜書類を総体として学問の記録と捉えることで、彼らの知識・教養を押さえ、思考の過程を辿り、歌学を中心に当時の学問の在りようについての考察を行う。
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研究実績の概要 |
今年度は漸く陽明文庫に出張し直接自筆資料を閲覧して調査を行うことができるようになった。6/29・7/20・8/31・9/21・10/26・11/16・1/19・2/22・3/27の9回に亘って、近衛信尹・信尋・尚嗣自筆の聞書・覚書ほか関連資料を閲覧し、調査内容の確認、整理・翻刻・読解・収集を行なった。 信尋の覚書『歌合難陳断片』は寛永十六年(1639年)に後水尾院の仙洞で行われた歌合における難陳の言葉を書き付けたものだが、今回詳しく調査することで、歌合の2日前の習礼に先立ち、左右それぞれの方に分かれて相手方の歌を評定し、各人が提出した褒貶の詞を整理・確定する際の書き付けであることが判明した。信尋は右方歌人として参加して三条西実条らと共に褒貶の詞の文辞の確定に中心的役割を果たしている。その中に、左方歌人であった後水尾院が関与する書き付けが見出されたことに拠り、後水尾院が歌合全体を統括する立場に立っていたことが証明された。ほかに宮内庁書陵部や東大史料編纂所所蔵資料などと合わせ考察することで、本歌合全体の実態が明らかになり、当時の添削という詠歌のシステムの中で本歌合が宮廷最後の歌合となった仕組みを解明した(「宮廷歌合の終焉――寛永十六年仙洞歌合の実態――」)。 近衛基凞による後水尾院・後西院からの聞書である『御手扣』は以前に紹介したことのある資料であるが、その中の近衛前久・中院通勝と後陽成天皇の間で交わされた歌語「ひもす鳥」「しろし」に関する発言について、陽明文庫所蔵の前久の覚書・書状、通勝の詠草、宮内庁書陵部所蔵の聞書などと突き合わせ考察することで、近世初期宮廷歌壇において王朝以来のみやびの伝統が如何に脈打ち続けているかを解明した(「後陽成天皇と和歌――近世初期宮廷歌壇の「みやび」」)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近衛前久から尚嗣に亘る四代の残した聞書・覚書は数量的にも多量のものが伝わり、ほとんどが断片的なものであり、内容もさまざまである。聞書についても、何についての、何時の、誰による聞書であるのか、明確な記述のあるものは稀である。覚書については、なおさらである。しかし、1点からだけでは何も見えてこない資料も、筆跡を鑑定し同じ筆者による他の資料を渉猟することで、別の場所の資料と結び付き資料の性格が把握できる場合も少なくはない。陽明文庫の当代の自筆資料についてほぼ全体の把握ができている現在において可能なことではあるが、片々たる資料であるため、原資料を実見してこそ得られる知見が重要である。その意味で、二年半ぶりに陽明文庫での調査が再開できたことの意義は極めて大きい。上記「実績の概要」にも記した成果のように、僅かな資料・記事の素性を探索するところから、文学史的意義を見出すことが可能であると思われるため、できるだけ多くの点数の覚書・聞書資料を調査・報告することに努めている。 その中で、現在、信尹の聞書である『聞書條々』について精査を加えつつある。和歌会の実際の運営に関わる和歌作法の記事が中心を占めるものであるが、冷泉流の特徴を示し宮中での和歌作法に関わるものとして詳しく、近衛家の歌学を考える上でも重要な書と考えている。各記事を他の関係資料と突き合わせつつ注釈的読解を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度も実際に陽明文庫に出張し、自筆資料の原典を閲覧することで、これまでの調査結果全体の確認を行いつつ、資料の性格・意義について考察を加えて行くこととする。 同時に、陽明文庫所蔵の書状・詠草・日記などの関連資料、また宮内庁書陵部・東山御文庫・京都大学・東大史料編纂所・国立歴史民俗博物館など他機関所蔵の関連資料との突き合わせを行なう。 上記の調査の記録について、あるいは資料によっては全体の翻字について、一点ずつ確認をして精度を上げた陽明文庫所蔵聞書・覚書類データベースを完成させる。 中でも上記の『聞書條々』、信尋筆の『御覚書』、信尹・信尋の「講釈聞書類」については、できる限り詳しい解読を行ない、論文の形で公表できる形にまでまとめて行く。
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