研究課題/領域番号 |
21K00288
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02010:日本文学関連
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
石川 透 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (30211725)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 奈良絵本 / 絵巻 / ガリバー旅行記 / 御曹子島渡 / 蓬莱山 / 御曹司島渡 |
研究開始時の研究の概要 |
スイフト作『ガリバー旅行記』に登場する、小人島、巨人島、馬人島、天空島といった島々に、当時大量に作られていた日本の奈良絵本・絵巻の絵の影響があるのではないか、という仮説の基に、日本の資料の制作状況と所在状況を中心に調査研究を行う。作品としては、『御曹司島渡』と『蓬莱山』の諸伝本を細かく調査研究することによって、初めて『ガリバー旅行記』との関係も見えてくると思われる。前者には、馬人島、背高島、小人島が登場し、後者には、天空島らしき絵が描かれている。当時の社会状況も考えながら、奈良絵本・絵巻と『ガリバー旅行記』との関係について考えてみたい。
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研究実績の概要 |
スイフト作『ガリバー旅行記』には、ガリバーが訪問する島々の中に唯一実在の国として日本が登場している。スイフトは、駐オランダ英国大使のテンプル卿の秘書を務め、遺品の整理をしていたことから、日本の情報を得たものと考えられている。この『ガリバー旅行記』には、小人島、巨人島、馬人島、天空島といった島々が登場するが、それらはどのように創作されたのであろうか。日本では、馬人島、背高島、小人島が登場する『御曹子島渡』という物語が存在し、登場する島々がかなり近い。この『御曹子島渡』は、近年17世紀後半に奈良絵本・絵巻として大量に制作されていたことがはっきりしている。また、奈良絵本・絵巻には、『蓬莱山』も多く作られ、天空の島に見える絵が存在している。スイフトは、日本の情報と共に、これらの奈良絵本・絵巻を見て、島々の発想を得たのではないか。さすがに、日本語の変体仮名で書かれた物語は読むことは出来なかったろうし、これらの作品の英訳があったとは考えにくいが、絵巻の絵を見れば、どのような物語かはすぐに理解できたはずである。この仮説を検証するために、日本の奈良絵本・絵巻の制作状況を調査研究したい。 以上の方針から、国外・国内に点在する資料の調査を予定していたが、残念ながら2021・2022年度は、新型コロナ感染症の影響により、国外はもとより、国内の調査にも制限がかかってしまい、本年度は、やっと、関連図書が所蔵されているアイルランドのチェスタービーテイ図書館と、アメリカのハーバード大学美術館において調査をすることができた。また、『御曹子島渡』と『蓬莱山』の奈良絵本・絵巻のデータの整理、並びに、関連資料の収集を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在までの進捗状況は、2021・2022年度は、新型コロナ感染症の拡大により、計画が大きく頓挫していた。奈良絵本・絵巻と海外の文学作品との関係についての研究は、これまで本格的な学術研究が行われていない分野であるので、現地での調査が不可欠であるが、その一番重要な調査が2021・2022年度は、ほとんど行われていないのである。本来の予定を変え、本年度以降にこの課題を持ち越すことにしたが、幸いなことに、本年度は新型コロナ感染症の影響が収まってきたために、ようやく、海外での調査を本格的に始めることができたのである。本年度は、後半になって、関連図書が所蔵されているアイルランドのチェスタービーテイ図書館と、アメリカのハーバード大学美術館において、奈良絵本・絵巻類を調査することができた。 また、本年度の前半には、これまでの科研費を使用した研究において、奈良絵本・絵巻の基本的な研究や分類は既にある程度終わっていたので、その過去に撮影していた、『御曹子島渡』と『蓬莱山』の奈良絵本・絵巻のデータは残されており、それらの整理を行った。もちろん、現在でも、次々とこれらの作品は発見されているので、それらのデータの整理も行うことができた。さらに、過去のデータでは不十分なものも多くあるので、今後も、できるかぎり、実物の調査を行いたいと考えている。 これらの全てのデータを活用し、『御曹子島渡』と『蓬莱山』の奈良絵本・絵巻がどこにどのようにもたらされたのか、『ガリバー旅行記』の作者スイフトが直接か間接かに見ることができたのかを考察したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究については、残りの予算を使用し、新型コロナ感染症の影響で調査が不十分であった部分を補いと考えている。すなわち、『御曹子島渡』と『蓬莱山』の奈良絵本・絵巻を保管している、国内外の機関や個人宅においての現地調査を行い、多くの情報を収集するのである。その際に、撮影可能であるならば撮影し、デジタル画像を比較しながら研究を推進することになる。当たり前のことではあるが、未開拓の分野については、初期段階での情報収集が最も重要であり、私自身もこれまでの奈良絵本・絵巻の研究において実感したことである。 したがって、国内外での現地調査に最も多くの費用を使用することになるが、目的物を調査した時点で、新しい情報が入ることがよくある。過去に調査に赴いた場所でも、目録化されていても、その情報が間違っていることも、特に海外では頻繁に起こるのである。もちろんそのような場合には、同じ場所に赴いて調査を行うことになる。しばらくは、このような作業の繰り返しが今後の推進方策であるといえよう。 以上のような方針は今後も変化はないが、最終年度として、これまでのデータの整理や、古典籍販売目録を含むネット上に掲載されている作品の調査を中心に活動を続け、『ガリバー旅行記』と奈良絵本・絵巻との比較の考察をしたいと考えている。
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