研究課題/領域番号 |
21K00329
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02020:中国文学関連
|
研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
谷口 高志 佐賀大学, 教育学部, 准教授 (10613317)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2022年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2021年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
|
キーワード | 生活様式 / 科挙 / 苦学 / 努力主義 / 能力主義 / 身体 / 読書 / 勤勉 / 感性 |
研究開始時の研究の概要 |
唐代・中唐期の文学には日常生活を題材にしたものが数多く見られる。本研究は中唐文学における日常への志向が、貴族に代って新たに台頭してきた文人官僚によってもたらされたことに着目し、新興階層たる彼らのその生活様式のなかにいかなる新たな価値観が表われているかを検討する。まず中唐の文人官僚が貴族と異なり、科挙を目指して苦学した経験を持ち、刻苦勉励を重んじる努力主義的な価値観を抱くようになっていたことを明らかにする。その上で勤苦を尊ぶ志向が私的な生活にも広く通底していたことを検討する。更にそうした価値観が中唐文人の身体意識にも及んでおり、自らの肉体で感じることに重きを置く生活様式を促していたことを論じる。
|
研究実績の概要 |
本研究では、日常への関心の高まりという中国文学史上の問題を、唐代後期の中唐期における社会構造の変化と結びつけ、中唐文学のなかに時代特有の新たな価値観の胎動を読み取ることを目指す。具体的には唐代文人の生活様式や価値観について、科挙制度を通して検討していく。 当該年度は科挙に関する基礎資料や先行研究を渉猟するとともに、初盛唐から中唐に至るまでの詩文を広く調査した。科挙の経験、特に合格を目指して〈苦学〉した日々が、文学のなかでどのように位置づけられてきたかを中唐・元ジンと白居易の詩文を中心に整理し、研究発表「科挙文学の再検討」を行った(2023年9月30日、東山之會9月例会・オンライン)。その大要は以下の通りである。 三つの試験(省試・吏部試・制科)を突破することで、高級官僚の一員となった元ジンと白居易は、自身の受験生時代を一種の成功体験として頻繁に作品に詠っている。遊蕩を戒めて勉学に励み、ときに友人らと競い合いながら、合格の栄誉を目指した日々――元ジン・白居易の詩文に見られる、こうした〈苦学〉時代の回顧は、科挙が当時の文人たちのなかでどのように内面化されていたのか、また科挙がいかなる価値観や生活意識を芽生えさせたのかを考えるうえで重要な示唆を与えてくれる。科挙の普及は、身分・家柄を重んじる属性主義から、個人の能力が評価される能力主義(メリトクラシー)への転換をもたらしたとされている。元ジン・白居易の詩文にはそうした価値観の揺らぎ、即ち前近代中国における努力主義・能力主義の高まりや、競争を通じた集団意識の深化、〈苦しみ〉を共有する者たちの連帯感の醸成、また私生活における〈規律・訓練〉の強化などが明確に表われていると考えられる。その意味において、〈苦学〉を詠う彼らの文学は、唐代半ばに進行していた生活様式の変化と、価値観の転換を如実に示しているとみなされる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
唐代における科挙関係資料の整理、および科挙に関する詩文の調査と整理に、想像以上に時間を要した。科挙に関する詩文は、登第詩・下第詩については既にある程度の先行研究の蓄積があるが、その他のもの、たとえば受験生が高官に送る行巻の書や、それに対する高官の返書、また受験生が科挙に赴くのを見送る序などは、これまで必ずしも十分に研究されてこなかった。そのため、それらの調査と整理に時間がかかり、研究にやや遅滞をもたらす結果となった。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は関連資料の収集と整理に努めつつ、研究成果を積極的に公表していく。「科挙文学の再検討」(2023年9月30日、東山之會9月例会・オンライン)の内容の一部を修正し、来る5月11・12日開催予定の九州中国学会において発表する予定である。また発表後は、その内容を論文にまとめ、査読付き学会誌に投稿する予定である。
|