研究課題/領域番号 |
21K00344
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02030:英文学および英語圏文学関連
|
研究機関 | 福岡教育大学 |
研究代表者 |
後藤 美映 福岡教育大学, 教育学部, 教授 (20243850)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
|
キーワード | 医科学 / 近代科学 / 人文学的知 / ロマン主義文学 / 視覚表象 / 姉妹芸術 / イギリス・ロマン主義 / 社会改革 / 知識 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、イギリス・ロマン主義文学が、一つの学問領域としての知識を表現するものであり、その知識によって大衆を啓蒙し、社会改革の方途を追求する文学であったことを明らかにする。ロマン主義の時代における知識とは、医科学、美学、文学、政治経済学といった学問領域において、知の分断ではなく、各領域の融合により構築された知識であったと措定する。そして、ロマン主義の詩におけて表現される、そうした知識は19世紀初期の人間性のイメージを刷新するものであり、そのイメージに平等な社会空間の実現という改革のヴィジョンが宿ることを論証することにより、詩における知識と社会改革との密接な関係を解き明かす。
|
研究実績の概要 |
本年度は、イギリス・ロマン主義の時代の知識の在り方を近代科学との関係から明らかにし、文学としての詩が、社会に伝播される知識にどのように与し、詩によってどのような知識と社会の形成に取り組もうとしたかについて研究を行った。 まず、ヨーロッパの19世紀中葉は、16、17世紀の科学革命から誕生する近代科学が、生物学、生理学といった特定の学問分野として専門分化していく時代であった。したがって、19世紀初頭のロマン派の時代は学問的知識が専門分化する過渡期の時代であったことを前提に、専門化する知の体系に詩がいかに寄与しうるか、人間や社会に有用であるとみなされた科学に対して詩の意義とは何かを考察した。特に、16世紀のフィリップ・シドニー、17世紀のジョン・ダンを経て、19世紀のウィリアム・ワーズワス、ジョン・キーツらの詩において結実する詩の包含する知識とは、科学と詩が融合する諸学問の包括的な知の体系であり、現代の社会における人文学と自然科学の結びつきの再構築を目指すための指針となり得る知の体系であることを明らかにした。その際、18世紀のアダム・スミスの政治経済学における同胞意識を形成する共感(sympathy)が、19世紀のアストリー・クーパーの解剖学、生理学における、身体の各部位の呼応(sympathy)と、統一的身体を形成する交感(sympathy)と通底し、それはジョン・キーツの詩における、想像力の基底に存在する、感覚的身体的な呼応(sympathy)と共鳴するという、知の横断の有り様を明らかにした。 さらに、ジョージ・バイロンの詩のうち、『チャイルド・ハロルドの巡礼』に着目しながら、ロマン派の時代の物語詩が、いわば、海洋紀として、地中海の制海権を巡るイギリスとフランスとの攻防を写し出し、当時のヨーロッパの軍事的、地政学的知識を伝播する機能を持ち得たことを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、イギリス・ロマン主義の詩が、近代科学による専門分化する知識の占有に抗しながら、人間についての包括的知識を呈示し、そうした詩の学問的知識が、社会と人間の理想の在り方を示唆することを明らかにした。また、こうした研究の中心課題を学会のシンポジウムで口頭発表し、その成果を論文として出版したので、順調に進展しているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、本年度の19世紀の詩と近代科学との関連を明らかにする研究をさらに発展させる。そして、2023年度の最終年度においては、詩が、人間の身体(constitution)というものを、人間個人の意志によって所有されるものであることを表明したこと、さらに社会という構造体(constitution)、あるいは憲法(constitution)が人間に課した枷からどのように解放されるべきであるかを表現したかということを、詩の言語と社会のタブーという観点から研究を行い、日本英文学会九州支部大会のシンポジウムにおいて発表する予定である。 またさらに、詩という文学の一形態が、絵画という芸術の形態と協働し、社会的改革を表明することができる可能性について、ロマン主義の詩とラファエル前派の絵画との新しい「姉妹関係」という観点から論文として学会誌に投稿する予定である。
|