研究課題/領域番号 |
21K00376
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02030:英文学および英語圏文学関連
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研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
本多 まりえ 明治学院大学, 文学部, 准教授 (60546878)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 動物表象 / シェイクスピア / ベン・ジョンソン / ジェームズ1世 / ヒューマニズム / 人間中心主義 / イソップ寓話 / 狐物語 / 動物 / 人間 / 菜食 / 肉食 / 狩猟 / ピタゴラス / モンテーニュ / エリザベス朝・ジェイムズ朝演劇 / 「物」としての動物 / テクストと上演 / 政治・経済的問題 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、初期近代英国演劇における動物表象を、テクスト、上演、娯楽、政治・経済問題など多角的見地から検証し、これら動物表象には娯楽性のみならず、政治・経済的問題も内包されていることを明らかにする。当時の演劇含む文学では、しばしば暴君と臣下が人と動物に例えられた。暴君が狩人や熊使いに、臣下が獲物や熊に例えられるなど、動物の比喩を通して間接的な君主批判が行われた。また、当時は「人間は動物に勝る」という考えが主流で、動物は見世物や贈答品など「物」として扱われ、動物の見世物と演劇は人気のある大衆娯楽として競争関係にあった。本研究は動物表象に潜むこのような政治・経済的問題を浮き彫りにするものである。
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研究実績の概要 |
本年度はシェイクスピア作品における熊・驢馬・犬の表象に着目し、作品テクスト含む一次資料や二次資料の分析を中心に研究を進めると共に、映像を通して現代の舞台において生きた動物がいかに用いられているかも検証した。他方、ベン・ジョンソンの作品における動物表象も一次資料・二次資料を基に研究を進めた。これら研究の成果しては、8月にアメリカで行われたWooden O symposiumという国際学会で、"The Functions of the Bear in The Winter's Tale"として発表を行い、聴衆やパネリストから質問を受けた。また、12月にはアメリカのRenaissance Society of Americaという国際学会で "Ben Jonson's Mockery of Bear-Baiting"という発表を行い、前者より専門に近いパネリストや聴衆が多かったせいか反響が大きく質問が多く出て、同じパネルの発表者にもいくつか質問し新たな知見を得た。年度末の3月には、明治学院大学言語文化研究所主催のシンポジウムで「驢馬に変身したボトムの演劇的効果」というシェイクスピアの『夏の夜の夢』に関する口頭発表を行った。一般の参加者からも質問やコメントを受け大きな刺激を得た。さらに、昨年投稿したものの出版が遅れていた"Volpone, or The Fox as a Mountebank Show"という論文(『十七世紀英文学における病と癒し』に収録)が2月に出版された。 加えて、9月にシェイクスピアに関する市民講座を担当した際に、シェイクスピア時代における人間と動物の関係(動物を下等な生き物とみなす人間中心主義が主流であったなど)を、現在社会におけるSDGsと結びつけて解説し、様々な世代の一般の方々に向けて、当該研究でこれまで獲得した知識を共有し、社会貢献に役立てたと思う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はシェイクスピアやベン・ジョンソンの作品における動物表象を対象とし、ジェームズ1世の熊いじめ熱や権力欲、ジェームズ朝の政治・経済に関する問題と絡めて幅広く考察することができ、シェイクスピアや他の劇作家の作品における動物表象を社会的観点から研究するという本研究の目的を達成できた。 8月のWooden O symposiumでは、シェイクスピアの『冬物語』における熊の比喩や熊がアンティゴナスを食べる場面に着目し、ジェームズ1世の熊いじめへの熱狂や人間中心主義を論じた。また、12月のRenaissance Society of Americaの学会ではジョンソンの『エピシーン』を取り上げ、元熊使いのオッターという人物などが動物のカップで酒を飲む場面に着目し、ジェームズ1世の熊いじめ熱や人間中心主義について述べた。年度末の3月の明治学院大学のシンポジウムではシェイクスピアの『夏の夜の夢』で驢馬に変身するボトムについて、『黄金の驢馬』や『変身物語』など材源との比較をしたり、エラスムスの『痴愚神礼賛』における理性の批判やシェイクスピアと同時代の他の演劇に見られる人間の動物へ変身を考察し、シェイクスピアの人間から動物への変身に対する見解を示した。さらに、『十七世紀英文学における病と癒し』に所収の論文では、ジョンソンの『ヴォルポーネ(狐)』における寓意的な名前の登場人物や動物の比喩に焦点を当て、イソップ寓話や『狐物語』における狐の表象を検証しつつ、当時イギリスやヨーロッパで行われていたmountebank showという見世物という娯楽的観点から論文にまとめた。 このように大部分は順調に進んだが、予定していた犬の表象に関する研究はあまり進まなかった。テクストや資料の分析はかなり進んだものの、発表する段階には及ばなかった。来年度はさらに考察を深め、口頭発表や論文で発表をする予定である。
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今後の研究の推進方策 |
シェイクスピア、ベン・ジョンソン、および同時代のその他の作家の劇作品における動物表象と人間と動物の関係について、テクスト含む一次資料・二次資料を基に、研究を進める。また、動物に関する言説(ピタゴラス、プリニウス、モンテーニュ、フィリップ・スタッブスらピューリタンによる肉食批判と動物愛護論、プリニウスやエドワード・トップセルなどの博物誌なども継続的に研究する。本年度は特に上記「現在までの進捗状況」で述べた通り、シェイクスピアやジョンソンらの様々な作品における犬の表象に着目し、口頭発表や論文という形で研究成果を発表する予定である。 具体的には、シェイクスピアの『ヴェローナの二紳士』や『夏の夜の夢』、ジョンソンの『みな癖が治り』、およびウィリアム・ローリー、トマス・デッカー、ジョン・フォード共作の『エドモントンの魔女』など、犬が舞台に登場する作品に着目し、犬と人間の関係のみならず、舞台上の犬が本物であったか偽物であったかという問題についても考察を進める予定である。また、シェイクスピアの『ウィンザーの陽気な女房たち』における鹿狩りや熊いじめへの言及、ジョンソンの『バーソロミュー・フェア』における熊いじめへの言及についても調査研究をし、動物と人間の関係のみならず、劇場とライヴァル関係にあった娯楽である熊いじめとの関係についてもより考察を進める予定である。さらに、上記『夏の夜の夢』に見られた人間から動物への変身や人間と動物の境界線について、ボトム同様半人半獣の怪物と見なされるシェイクスピアの『テンペスト』のキャリバンなどに着目し、考察を深めたい。そして、他の作家の動物の描き方、扱い方を比較検討することで、最終的には、シェイクスピアの動物に対する態度の特異性を明らかにする予定である。
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