研究課題/領域番号 |
21K00398
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02030:英文学および英語圏文学関連
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
巽 孝之 慶應義塾大学, 文学部(三田), 名誉教授 (30155098)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2025年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 慶應義塾 / 独立自尊 / 瘠我慢 / 独立革命 / 南北戦争 / モダニズム / 横浜正金銀行 / 南方熊楠 / 夏目漱石 / 小泉信吉 / ヨセミテ国立公園 / 十二支 / 自然保護運動 / 神社合祀反対運動 / 慶應義塾大学 / 小泉信三 |
研究開始時の研究の概要 |
世紀転換期のモダニズム時代は、欧米のみならず東アジアでも帝国主義が勃興した時期だが、その折に日本と世界を接続したのは疑いなく、東京銀行や三菱 UFJ銀行の先祖に当たる横浜正金銀行である。日露戦争から第一次世界大戦、関東大震災に至るまで、同行が歴史の背後で果たした経済的役割は大きい。だが、往々にして見逃されるのは、創立者に福澤諭吉を含む同行が単に金融面で業績を残すのみならず、南方熊楠や永井荷風、小泉信三、水上滝太郎、野口米次郎など若き知識人や文学者らを中心にした文化的人脈をも育んでいたことだ。申請者の祖父であり同行ロンドン支店長であった巽孝之丞を中心に、同行の文化史的意義を探る。
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研究実績の概要 |
2021年 3月に最終講義「慶應義塾とアメリカ」を行い 38年間勤務した慶應義塾大学を定年退職し名誉教授となった後には、 11月に和歌山県田辺における南方熊楠顕彰館で、熊楠と親交が深かった横浜正金銀行ロンドン支店長の祖父・巽孝之丞について展覧会が催された機会に、特別講演を行ったのは昨年度述べたとおりだが、 2022年度はその活字版が「巽孝之丞と横浜正金銀行の時代」(『熊楠ワークス』/第 59号/2022年 4月 1日/33-38頁)として発表された。 とはいえ、 2022年元旦からは勤務先が慶應義塾ニューヨーク学院長に着任し生活が一変したので、研究にも支障が出るかと懸念されたものの、最終講義に深く熱い関心を持ってくれた編集者の勧めで、 6月以降の一時帰国時に集中作業し、最終講義とそれに関連するモダニズムと慶應義塾関連の論考を集大成した『慶應義塾とアメリカ:巽孝之最終講義』(小鳥遊書房/2022年8月)を上梓することができた。アメリカ文学思想史上重要なフランクリン、エマソン、ソロー、トウェインの群像に福沢諭吉の独立自尊の思想、あるいは瘠我慢の思想を重ね、環大西洋的にして環太平洋的なモダニズムが国際詩人ヨネ・ノグチやノーベル文学賞候補者西脇順三郎へいかなる影響を与えたかを考察した一冊だが、このように日本が西欧的なグローバル文化へ参入していく時代背景こそが、祖父がやがて慶應義塾の特撰塾員に選出される基盤となったことは、疑いない。幸い学会でも高い評価を得て、サンフランシスコ三田会にも招聘され講演した。 2021年10月に最終講義の続編として行った日本ソロー協会特別講演では、横浜正金銀行サンフランシスコ支店時代の祖父に触れたが、その活字版は論文「時をかけるソロー:ヨセミテ、熊野、八ヶ岳」(『ヘンリー・ソロー研究論集』/第47&48号/2023年2月/89-99頁)として刊行された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前項でも述べたように、 2022年最大の成果としては、最終講義とそれに関連するモダニズムと慶應義塾関連の論考をまとめた『慶應義塾とアメリカ:巽孝之最終講義』(小鳥遊書房、2022年8月)を刊行したことが挙げられるが、振り返ってみるなら、熱心な編集者の勧めがなければ、このタイトルの書物をこれほどに迅速に刊行することはできなかったろう。時系列的に言えば、本書は2013年の拙著『モダニズムの惑星:英米文学思想史の修辞学』(岩波書店)以後、焦点を慶應義塾に絞り直した上での発展型であり、慶應義塾と世紀転換期モダニズムをめぐる検証作業は、これをもって完了したと言える。 したがって、本研究の理論的足固めは現時点で終了したことになる。 以後はいよいよ、横浜正金銀行ロンドン支店とそこを拠点に織り成された慶應義塾系列の人脈がいかなる文化的文学的ネットワークを切り拓き、小泉信三を中心とする戦前から戦後にかけての国際金融に加担したか、その結果、関東大震災の収拾においてもいかに貢献することになったかを、さまざまなキーパースンの歩みを辿ることで、跡付けていきたい。 また、現在申請者が慶應義塾ニューヨーク学院長を務めている立場を活用して、いわゆるイギリス流パブリックスクールの気風や(「義塾」とはもともと "Public School"の訳語であった)、それに影響を受けたであろう横浜正金銀行ロンドン支店におけるジェントルマン文化やキリスト教の受容、その美徳としてのノブレス・オブリージュについても、歴史的調査を進めていきたいと考えている。というのも、そうしたイギリス貴族的思想は、戦後社会におけるアメリカ的民主主義の前に撤退を余儀なくされるからだ。 その点においても、戦後解体される横浜正金銀行は古き良きイギリス的美徳と表裏一体であった。
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今後の研究の推進方策 |
最新刊『慶應義塾とアメリカ』については、その内容と慶應義塾ニューヨーク学院の新しい使命、日米慶應から成る三重の文化( Triculture)は矛盾しないので、英語日本語双方による学院長ブログで発信中だ。英語の方は着任早々からなので既に 24回を数え、日本語の方は今年 2023年から始めたので4回目である。しかしこれは読者の反響を得る絶好の機会のため、時に横浜正金銀行ロンドン支店のことも紛れ込ませており、本研究の内容も徐々に披露していく予定だ。以前、文学部の現役教授であったときに、ゼミのウェブサイト経由で、外部から祖父の一家について貴重な情報が寄せられたこともあったので、毎月のブログ発信の効用も大いに期待される(https://www.keio.edu/about-us/headmasters-voice)。 加えて、ニューヨーク学院は最近、三田にある福沢研究センターより、貴重書籍や重要文献 約200点(ダンボール2箱分)を購入したので、それらも大いに有用になる。 6月半ばから 8月下旬までは学院が夏休みのため一時帰国するが、三田メディアセンター(図書館)には、慶應義塾の第4代塾長で、のちに小泉信三らも恩恵を被る留学制度を導入するばかりか祖父・巽孝之丞など外部で慶應義塾に貢献のあった人間を少なからず特撰塾員に選定した鎌田栄吉(任期1898~1922年)の全集が所蔵されているので、有効活用したい。極めて外遊の多かった鎌田塾長の足跡から、世紀転換期における慶應義塾のグローバルな展開が浮上するだろう。 加えて、パブリック・スクールの気風から形成されたイギリス的ジェントルマンの美徳とキリスト教の精神を、横浜正金銀行ロンドン支店長としての巽孝之丞がいかに吸収し支店内部に定着させたかも、彼の部下であり最後のロンドン支店長となる加納久朗子爵の証言があるので、その背景を綿密に検証していきたい。
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