研究課題/領域番号 |
21K00402
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02030:英文学および英語圏文学関連
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
虎岩 直子 明治大学, 政治経済学部, 専任教授 (50227667)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | ポストヒューマン / 借用 / アイルランド文学 / 環境との共生 / サステナビリティ / 記憶と芸術 / 進化と解体 / シネード・モリッシー / 他者との共生 / 環境 / 視覚芸術と文学 / アイルランド現代詩 / 病気 / トランスレーション / 詩と視覚芸術 / 病気と芸術 / 現代英語詩 |
研究開始時の研究の概要 |
20世紀後半以来、従来の人間中心的な知の追求を目指してきた ヒューマニティーズが行き詰まりを見せてきた状況の中で、多様な要素が絡み合いながら生成変化する世界の一環として人間を含む諸々の事物のありようを、人間中心的ではない視点で再考するポストヒューマニティーズが注目されるようになってきた。本研究は、その旗手の一人ロージ・ブライドッティの姿勢を学術的背景とし、芸術活動の中に、物質的であると同時にメディアに媒介されたポス トヒューマン的な主体が肯定的な倫理で結びつく共同体を目指す姿を探る。そして、現在及びパンデミ ック以降の環境世界における芸術活動の倫理的役割を提示する。
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研究実績の概要 |
23年度は7月下旬にブリティッシュ大学カイロ校で開催の国際アイルランド文学学会大会に発表参加した。大会のテーマは「サス ティナビリティ」であった。いまや誰もが口にするようになった「サスティナビリティ」は芸術領域よりも、自然科学及び実学領域で議論される用語である。が、当学会では文学における、文学による、サスティナビリティを議論した。本研究者はシネード・モリッシーの詩を材料に、人間中心の科学技術の進歩によってバランスを崩し、元来備わっているはずの持続可能性を惑星規模で失いつつある状況について、ポストヒューマニティの視点から論じた。方法としては「借用」という形をかえ、他者との結びつきを模索しながら新たな創造を目指す方法に注目した。 8月は英国での資料収集に努めた。オペラや演劇で「神話」を翻案し、人間と世界の結びつきの物語を再構築する動きが活発に行われている。 10月には国際アイルランド文学学会日本支部開催の大会でシンポジウムのパネリストとして発言した。テーマはEvolutions/ Dissolutionsで、本研究課題のポストヒューマンの視点から、「進化、発達」の過程が当然辿ることになる「解体、分解」、そしてその先に希求する新たな 「結びつき、共存」について、提言した。「解体」を否定的なものばかりと捉えず、新たな結びつきを可能にする運動として、「借用」による「解体」と新たなものへ「変身」させていくことを積極的に行っている現代文学と芸術の動きを紹介および解析した。 上記の口頭での発表活動と並行して、9月末までに「記憶と芸術」というテーマで、人間(ヒューマン)について特徴的である記憶が担うべきポストヒューマン 的世界への役割を、W. B. イエーツとS. ヒーニーというノーベル賞受賞詩人の作品を中心に論じ、文学・芸術分野の他研究者の論文とともに編集して、3月に出版した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
理由 当該研究は期間限定のパフォーマンスを含む視覚文化表象と「文学」との「借用」による「視差的視線」を取材分析することによって、他者との共生の道を示 唆することを目的とする。ゆえに当該研究者の専門領域である英語圏、ヨーロッパ地域、オーストラリアでの取材を計画していたが、新型コロナウィルスの蔓延 により予定していた出張が当初2年間延期となった。 それが研究遅延の大きな理由である。 2022年度から出張が可能となり積極的に学会発表、パフォーマンスや展覧会などを取材しているが、一年の遅れがそのまま引き続き解消されてはいない。だが、この間リモート学会や会議の進展により異なった形での研究方法が導入されて、ライヴ映像やリモートでのあらたな結合による創造に対する着眼点を得た。本年度を最終年度として、あらたな結びつきによる環境との共生を多角的に考察しながら、成果のまとめを勧めていく。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は当該研究者の発表と意見交換の基盤の一つであるアイルランド文学学会の国際大会が学習院大学で開催される。総合テーマはAftermath (事件の後)であり、当該研究課題「ポストヒューマン時代の芸術が探る環境世界のバランスと共生への地図」で探る人間中心主義のヒューマニズムで行き詰まった世界・地球の環境世界に対して、その行き詰まり以降、文学や芸術は何ができるのかを問う倫理的な姿勢に合致する観点を様々な研究者や視点から得る機会となるであろう。学会の主催者グループの一員として、積極的に運営・参加に努め、内外の研究者と意見交換を行う。 また5月中旬には、アイルランドの伝説・神話・妖精物語を「借用」して少年少女向けの小説作品を執筆してきたO. R. Melling氏の講演を、当該研究者は一般参加強化という形で所属大学で組織することになる。神話・妖精譚は21世紀の環境保護運動とも大きな関わりを持ち、当該研究課題の「環境世界のバランスと共生」の必要性を文学を通して教示する手段である。このMelling講演は、当該研究者が口頭発表予定の、5月末にスペインのアルカラ大学で開催されるアイルランド文学ヨーロッパ支部学会のテーマ「倫理」と共に、文学・芸術の21世紀世界で果たすべき役割 「人新世の黄昏」といわれる状況においての文学・芸術の役割を考察及び観客に周知させる機会となる。 本研究の最終年度にあたって、「混沌の際(エッジ)--芸術の使命」というタイトルで論文を執筆して、気候変動・パンデミック・戦争などによって混乱している環境世界に暮らす人間にとっての芸術の役割を社会に問う予定である。なおこの論文は「カオス」というテーマで編纂される書籍として本年度中に出版が決まっている。 上記の成果を次のテーマ、「ポスト・ヒューマンあるいは人新世の黄昏といわれる状況においての文学・芸術の役割」に繋げていく。
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