研究課題/領域番号 |
21K00409
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02040:ヨーロッパ文学関連
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
渡辺 将尚 山形大学, 人文社会科学部, 教授 (90332056)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2021年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
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キーワード | 学生運動 / 家父長的 / 支配=被支配 / 理念の喪失 / ナチズム / ホロコースト / 戦後ドイツ / 負のプレッシャー / 戦争責任論 |
研究開始時の研究の概要 |
「ホロコースト否定論」とは,ナチズムのもとに行われた主にユダヤ人への大量虐殺の犠牲者数や殺害の方法について異議を申し立てる主張(「本当は600万人よりはるかに少ない」,「実はガス室はなかった」など)全体をまとめて言い表す言葉です。しかし,これまでこうした論調を牽引してきたのは,非ユダヤ系のイギリス人やフランス人,アメリカ人などでした。本研究は,(1)「ホロコースト否定論争」においてなぜドイツ人の関与が少ないのか,(2)その中でも論争に参画したドイツ人は,どのような主張を繰り広げたのか,またそのような主張をする背景にはどのような事情があるのか,以上のような点を考察するものです。
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研究実績の概要 |
本年度は,アメリカとフランスを中心に展開されてきたホロコースト否定論が,1970年代に入ってなぜドイツで盛んに主張されるようになったのかという問い対して,令和5年度以降に論証を試みる仮説を確定させることを目標に研究を行った。 従来の研究の中には,たとえば,1968年の学生運動に着目し,これを主たる要因に位置づけようとするものがある。ドイツの学生運動では,ナチ政権を招来しておきながら戦後いっさいその責任を負わず,相変わらず家父長的な支配=被支配関係を家庭に持ち込もうとする両親世代への批判も主要なテーマの一つとなったが,ユダヤ人への大量虐殺を完全否定あるいは過小評価するホロコースト否定論はそうした批判への弁解だったというのが,それらの研究の立場である。しかしそうした説明には疑問が残る。なぜなら,それまで家父長的だった両親世代が,学生運動によってその思考を簡単に放棄し,ひたすら子世代への弁解に回るというのは,いかにも無理があるからである。 それに対して報告者が立てた仮説は,「理念の喪失」である。1970年代以前のドイツにも,たしかに「歴史修正主義」と言われる主張は存在した。しかしこのような主張は,ナチズム下で行われたことを,結果的にそれが誤りであったか否かに関わらず,すべて高貴なる意図に基づいた行動・施策であったことを説明しようとするという点において,その後の否定論者たちと決定的に性質が異なる。なぜなら否定論者たちは,当時の人間たちの意図については全く,あるいはほとんど触れないまま,ただただ事実の否定に専心するからである。 1970年代のドイツにおいて「理念の喪失」と呼べるような現象が生じ,それが『アウシュヴィッツの嘘』を始めとした一連のホロコースト否定論を出現させたのではないか。これが今後本研究で論証を試みたい仮説である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画調書の段階で立てた仮説は,アメリカやフランスが先行する形で展開されていたホロコースト否定論にドイツ人として何か主張をしなければならないというある種のプレッシャーが,1970年代に至ってドイツの地において否定論が噴出させる原動力となったのではないかというものであった。たしかにドイツ人の否定論を種々分析すると,そのような側面を少なからず見出すことができる。しかし,本年度の研究によって報告者は,それに加えて「理念の喪失」という現象があるのではないかとの着想を得ることができた。したがって,本研究は当初の計画以上に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究によって,検証すべき仮説が2つとなった。しかし,これらの仮説は,1970年代にドイツで否定論が噴出した要因に関わるものであり,多ければ多いほど否定論噴出の背景をより詳細に描き出すことが可能となる。令和5年度以降は,この2つの仮説の双方を検証できるよう,引き続き国内外の文献を用いながら分析を進めていく。
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