研究課題/領域番号 |
21K00421
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02040:ヨーロッパ文学関連
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
大出 敦 慶應義塾大学, 法学部(日吉), 教授 (90365461)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | ポール・クローデル / フランス象徴主義 / 水墨画 / トマス・アクィナス / クローデル / 象徴主義 / 新トマス主義 / 日仏交流 / 美術史 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、駐日フランス大使として日本に滞在した詩人劇作家であるポール・クローデルが、滞日中に水墨画・障壁画に関心を示し、それらをスコラ学を通して再解釈し、そこに西洋の写実的絵画には見られない、見えないものを認識させてくれる媒介の機能を見出したことを明らかにするものである。このことを明らかにすることで、日本絵画のクローデルへの影響が解明されると同時に、浮世絵中心だったフランスの日本絵画の受容に対し、クローデルの水墨画・障壁画に関する言説が日本美術に対する新たな価値体系の創出に関わったことも浮かび上がってくると考えている。
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研究実績の概要 |
2023年度は、クローデルの思想形成に影響を与えた日本画、及び日本画家の調査を引き続き行った。前年の2022年はクローデルと親交のあった京都画壇の竹内栖鳳との関係から、クローデルが日本画、とりわけ山水墨画をどのように見ていたかを考察したが、2023年度は、水墨画と深い関係のある禅宗及び大乗仏教の思想との関係から分析をした。クローデルは禅宗の「不立文字、教外別伝」の教えを「禅宗の根本原理のひとつに偉大な〈真理〉は言葉で言い表すことができないというものがある。真理は教えることができず、一種の伝染によって魂に伝わるのである」と理解している。「不立文字」の思想はクローデルの強い関心をひいたと考えられ、実際、「日記」、「自然と道徳」、『繻子の靴』などで繰り返し引用している。この禅宗の思想の実践として、クローデルは水墨画を捉えていたことを考察した。クローデルは水墨画の大きく取られた余白が言語化されない〈真理〉であると見做していた。実際には余白を多用し、独自の画風を確立した狩野探幽は、そこに描かれた事物を効果的に際立たせるものとして余白を用いたが、クローデルは、そこに描かれた事物を通して、余白としか表現できないものを絵の鑑賞者に想起させるという一種の認識論的装置に水墨画を読み換えた。この転換によって、クローデルは今度は、禅の思想をヨーロッパのスコラ学に接ぎ木をして、自己のなかで体系化を図った。すなわち、超越者あるいは絶対者は、人間の知性を超えているためにどのようなものか認識できない点で、禅宗の〈真理〉に通じる。そこから、彼は日常的な事物を通じて、どのようなものか認識できない超越者が存在することを認識させるということを試みようとしていることを明らかにした。クローデルにとって、この日常的な事物というものは文学であり、詩であるため、彼の文学的実践が超越者の認識を目指すものであることを論証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、調査と研究の二つの柱からなっている、このうち調査に関しては、障壁画、水墨画の探索・調査が十分でない面がある。クローデルが訪れた京都の寺院が所蔵している障壁画・山水墨画の調査は進んでおり、クローデルの記述している絵画を特定できているが、京都以外の地域、たとえば名古屋城本丸御殿の障壁画などの調査がまだ行われていない。またかつての財閥等が所蔵していた絵画は、現在、所蔵関係が不明なものが多く、これらの絵画の所蔵を確認し、調査することも課題として残っている。一方、研究・分析の方は概ね順調に進んでいる。クローデルの水墨画の理解は、禅宗の思想とトマス・アクィナス等のスコラ学の結節点としてあることを今年度は考察した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでに引き続き、クローデルの見た狩野派の絵画の調査及び大正期の京都画壇の画家たち(冨田渓仙、竹内栖鳳、山元春挙等)の作品と証言の収集と分析を進める予定である。クローデルの絵画の志向は、一つは同時代の京都画壇の画家たちの活動に向かう、もうひとつは江戸初期の狩野探幽らの絵画に向かっている。この両方の絵画の資料の調査と分析を進める方針である。一方、研究に関しては、これまで水墨画と禅宗等の仏教思想の関連でクローデルへの影響を見てきたが、クローデルが離日後に刊行する絵画論『眼は聴く』に納められている「オランダ絵画序説」で展開されている論に水墨画の思想の影響が見られることを論証することを予定している。このことによって、クローデルが日本絵画から弾き出した思想が、単位水墨画だけに当てはまるだけでなく、絵画全般にあてはまることを論証する予定である。 また、これまでの研究を単著としてまとめ、成果を公表する準備を進めることを計画している。
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