研究課題/領域番号 |
21K00422
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02040:ヨーロッパ文学関連
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
鷲見 洋一 慶應義塾大学, 文学部(三田), 名誉教授 (20051675)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 共時性 / メンタルモデル / 事件 / 圏域 / 1730年代 / 18世紀 |
研究開始時の研究の概要 |
10種類の圏域を設定して、歴史上のある時期の個人と集団に関わる構造的理解と把握を目指す。圏域概念はもとより私たち現代人の恣意的な発明ではない。啓蒙期のフランス人が世界や社会や他人や自分という所与を受け止め、思い描き、判断する時に依拠していた枠組みである。いわば18世紀人の「メンタルモデル」なのである。また人々の常態である圏域への突発的な闖入である「事件」論も重要である。たんなる「事件史」や、「出来事史」に終わらない、構造的、有機的な歴史と文化の総合把握を目指したいと考えている。
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研究実績の概要 |
本研究の根幹は「共時性」の記述である。作業の具体的な方策として、1730年代という短期間に対象を限定し、ヴォルテール『哲学書簡』刊行や小説禁止令などを中心に、同時代の政治・歴史背景、さまざまな個人や集団の動向や心性と関連づけて、脱領域重視の方法で論じた。「資料論」、「圏域論」、「事件論」の3つの論点を据え、「資料論」と「圏域論」についてかなりの見通しをえた。 「資料論」は、参考文献資料ではなく、ある時代や時期の「共時性」描出のために不可欠な同時代文献を指す。2022年度は毎年刊行されている『王立暦』のなかから1739年のものを選び、組織、団体、集団レヴェルでのフランス社会の見取り図を抽出した。また、いわゆる啓蒙主義者第一世代を代表するヴォルテールの膨大な書簡を通読して、多くの示唆をえた。さらに「共時性」のすぐれた表象体である「地図」を重要視し、テュルゴのパリ地図(1739年刊)に関する資料を収集した。 「圏域」とは啓蒙期のフランス人が世界や社会や他人や自分という所与を受け止め、思い描き、判断する時に依拠していた枠組みである。以下に2022年における個々のモデル圏域について,調査、考察が進んだものを示す。a 自然圏域:いわゆる「気候学」なる学問分野があることを知り、基本論文を渉猟した。c 公共圏域: 若干の定期刊行物を取り上げて、当時の「メディア」の実体を探った。d 私的圏域: ヴォルテールほかの文学者たちの家庭生活、性愛観などを考察した。g 思想圏域:ヴォルテール『哲学書簡』のテクストと、出版を巡るトラブルを精査した。 また人々の常態である諸圏域への突発的な闖入である「事件」論も重要である。たんなる「事件史」や、「出来事史」に終わらない、構造的、有機的な歴史と文化の総合把握を目指して、「事件」に関する20世紀後半のさまざまな論考を調査した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでの2年間で、かなりの進捗を実現できたと考える。「資料論」、「圏域論」、「事件論」の3つの論点のうち、「資料論」と「圏域論」についてかなりの見通しをえた。 「資料論」ではフランス18世紀を共時的に捉えるために有効な資料体の構築自体を目指し、またテュルゴの地図の精細な解読を試みたが、『王立暦』、一般書籍、書簡、回想録や日記、政府統計・外交文書、定期刊行物などを調査して、多くの示唆をえた。 「圏域論」では、1730年代の同時代人が、限定された期間における現実所与の各々を、特定の「メンタルモデル」を介して受容していたと考えるところから、全部で9つの圏域に加えて、さらに「事件」として介入する「隠蔽」圏域を構想した。多分野を渉猟する努力と膨大な資料博捜とが要求されるが、力尽きてただの世界史年表のような事象・事件の平板な羅列・記述に終わらないためにも、同時期の人間がその心身両面で実際に生きていた歴史の「現場」に立ち会うのである。「共時性」研究の提唱で人文研究、とりわけ我が国の18世紀研究に新たな一石を投じたい。 また、「共時性」を記述する一つの試みとして、本研究の傍系に属する企てではあるが、『編集者ディドロ』という大著を刊行して、幸いにも2022年の読売文学賞を獲得した。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は『王立暦1739年』を中心に諸資料を精読し、18世紀中葉の「メンタルモデル」を描出する。また、「圏域論」では残された各論について、調査と記述を進める予定である。b 政治圏域(王権、政府の政策、宮廷の動向、戦争外交)。e 生活圏域(ヴォルテールなどの書簡よび定期刊行物に見られる衣食住や薬品広告について若干の個人の私生活を例に取りながら記述する)。f 経済圏域(物価指数、農業ほか諸産業と流通)。h 表象圏域(美術、演劇、音楽・オペラ)。 i ユートピア圏域(夢想、理想)現代社会ではほとんどありえない夢や夢想や感傷の作物で満たされる。ヴォルテールを始めとする際立った個性の息継ぎの場所であり、楽園である。むろん、造形芸術や文学との関連が問われる。j 隠蔽圏域(恐怖、異常、犯罪、処刑、地下文書、検閲) また、事件論の端緒として、圏域a~iの9種の生活常態に「闖入」してくる外発性の出来事が「事件」とその「背景」であり、「隠蔽圏域」としてまとめる。この隠蔽されがちな事件グループについては、1960年代五月革命の余波から生まれた一連の歴史家たちによる事件論の論文が参考になる。「隠蔽圏域」研究はいわば事件論の総仕上げである。主として定期刊行物の記事から漏れ落ちてしまう生々しい現実と、記事になっても変形され、歪曲されて報道される出来事(定期刊行物「雑報」欄が伝える伝奇的な情報など)を取り上げ、そうした操作と編集の過程で、「事件」のもつインパクトが弱められて、一般社会の常態に吸収されていく消息を確認する。
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