研究課題/領域番号 |
21K00424
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02040:ヨーロッパ文学関連
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
渡邊 徳明 日本大学, 松戸歯学部, 准教授 (20547682)
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研究分担者 |
嶋崎 啓 東北大学, 文学研究科, 教授 (60400206)
松原 文 (松原文) 立教大学, 文学部, 助教 (70827245)
高名 康文 成城大学, 文芸学部, 教授 (80320266)
伊藤 亮平 松山大学, 法学部, 准教授 (80781070)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 中世ドイツ文学 / 中世フランス文学 / 遊戯論 / 中世文学における作者 / 中世文学受容 / 独仏比較文学 / 中世の老いと成熟 / 遊戯的文化論 / 恋愛文学の伝統 / 中世における独仏の文化交流 / 伝承を取り込む作者の創意と内面 |
研究開始時の研究の概要 |
中世ドイツ語圏の宮廷騎士文学の古典的諸作品については、20世紀後半には受容者が共有する認識や物語素材が重視されたが、1990年代以降には、そのような外在的伝承素材を戦略的に作品に取り込んだ作者の積極的営為や精神構造が注目されている。 本研究では、13世紀以降のパロディー的な文学作品に積極的作者性を見出す。1200年前後の古典的な作品とそれら時代の下ったパロディー的作品の描写の比較によって、社交的な遊戯としての恋愛の描写の変化を考察する。さらには戯画的で即物的なタッチの性愛描写は古典期の恋愛観念をいかに変質させたか、更に仏語圏の文学の影響はいかなるものか、など比較文学的視点からも考察してゆく。
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研究実績の概要 |
1)2022年12月10日に龍谷大学で開催された国際アーサー王学会日本支部大会において、シンポジウム「 宮廷騎士文学の遊戯性の諸相―恋愛奉仕のパロディー化を中心に―」を行った。本シンポジウムでは、13 世紀以降のパロディー的な文学作品を扱った。1200 年前後の古典的な作品とそれから時代の下ったパロディー的作品の描写の比較によって、社交的な遊戯 としての恋愛の描写の変化を考察した。古典的なテクストの中に描かれる人物たちは、宮廷社会のコードを共有して社会的な役割を演じるという意味で遊戯の参加者であり、その作品を受容する者たちも、同時代の社会の実相が作品化された世界に自己を投影して楽しんだと考えられる。恋愛奉仕の描写はその代表的な例であるのだが、そこには貴婦人を称賛する聖化と共に、その肉体に目を向ける俗化の両方が含まれている。それは遊戯の中でこそ調和しうるものである。遊戯はよそ者を排除しつつ仲間意識を高める文化的な行動であり、常に新たな流行を取り込んで更新されてゆく。1200 年前後には貴婦人の存在を神聖視する婦人奉仕の遊戯が宮廷を支配していたが、数十年たつと、作品を受容する場の変化に応じてその内実は大きく変容していく。本メンバーによる5つの発表ではその諸例として、財産や身分を守るシステムとしての恋愛、より肉感的な恋愛遊戯、 論議を呼ぶ人物像のパロディー化と再解釈、農民や醜さの描写を通じた宮廷文化のパロディー化などについて報告した。 2)研究代表者の渡邊は広島独文学会において『ニーベルンゲンの歌』についてのレクチャー講演を行った。 3)研究分担者の高名は著書『『狐物語』とその後継模倣作におけるパロディーと風刺』(2023年2月、春風社、単著)を出版した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画に照らして、概ね順調に進んでいる。強いて、予定通りに進んでいない部分を挙げるとすれば、研究代表者の渡邊が2022年に実施しようとしていた『モーラントとガリエ』についての研究ができなかったことである。これについては、英雄伝説である『ニーベルンゲンの歌』とそのパロディーの『ヴォルムスの薔薇園』の研究に集中したことが原因である。年度途中で広島ドイツ文学会から『ニーベルンゲンの歌』についてのレクチャー講演会の依頼があり、多くの方に研究をお伝えできる発表機会の社会的意義を考え、『ヴォルムスの薔薇園』を『モーラントとガリエ』との比較で研究するのではなく、より著名な『ニーベルンゲンの歌』との比較で論じることに決めた。ただし、そのような比較は既にこれまで十分になされてきたので、近年あらたに出版された『ヴォルムスの薔薇園』の校訂テクストを使って同じテクストヴァージョンが写本ごとにどのように異なる描写で伝播したか、について考察した。 この他、メンバー全体の問題としては、新型コロナウィルスやウクライナでの戦争勃発による国際情勢の緊迫化により、ヨーロッパへの調査研究出張ができず、その分の予算を執行できなかった。それについては、渡邊、伊藤は2023年度に実施する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
渡邊:『ヴォルムスの薔薇園』AとDの人物描写を解釈する。AとDの描写の違いと、戯画的な性的描写の意図を解明する。また本研究プロジェクトの総括を行う。 松原:先進のフランス文学を受容する形勢から脱しようとした中世盛期以降の詩人の「作者性」と、非宮廷人との交流による宮廷の規範の相対化を論じる。 伊藤:後期ミンネザングの歌人に内在する、聖俗が混交する性愛のイメージを明らかにする。 高名:『薔薇物語』後篇や『フォヴェール物語』にみられる、宮廷的恋愛の価値体系の問い直しとしての性愛表現を比較文学的に考察する。 嶋崎:『指輪』を仏文学との関連で考察する。農民よりむしろ高貴な人間の野蛮さが強調され肯定される点をブリューゲルが描く農民像などと比較し考察する。 これらのテーマをベースとして、2023年度秋季の日本独文学会において「夫人の名誉」をキーワードにしてシンポジウムを開く予定である。恋愛奉仕の対象としての貴婦人の名誉をどのように守り讃えるのか、というのがフランス、ドイツの中世文学における主要テーマとも言えるが、2022年12月のアーサー王学会でのシンポジウムの議論を踏まえ、更に内容を深めて議論を行ってゆく。具体的には13世紀を通じて文学の質がどのように変化していったのか、ということに注目してゆく。そして、その議論の結果を日本独文学会研究叢書としてまとめてゆく作業に移る。(その刊行は2024年度になる予定であるが。)
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