研究課題/領域番号 |
21K00434
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02040:ヨーロッパ文学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高橋 宏幸 京都大学, 文学研究科, 名誉教授 (30188049)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | シーリウス・イタリクス / 『プーニカ』 / ラテン文学 / 歴史叙事詩 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、西暦68年に執政官も務めたシーリウス・イタリクス(Silius Italicus)が晩年に著したラテン歴史叙事詩『プーニカ(Punica)』全17歌を対象として、その文学表現の特色を析出し、作品の独創性と卓越性に考究するとともに、この叙事詩が西洋古典文学の伝統の中にどのように位置づけられるか明らかにしようとする。
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研究実績の概要 |
口頭発表:「Rutulum rector: シーリウス・イタリクス『プーニカ』16.141」 『プーニカ』終盤近く、スキーピオーは「ルトゥリーの指揮官」(Rutulum rector 16.141)と呼ばれるが、この表現から第一に思い浮かぶのはウェルギリウス『アエネーイス』でのアエネーアースの宿敵トゥルヌスであることから、なぜローマを危機から救う指揮官にそうした建国事業を危うくした敵を想起させる呼称が用いられるのか疑問に思われる。この問題意識から出発して、ルトゥリーの複数の含意と固有名をともなう「指揮官」(doctor/ dux/ rector)の用例とを検討したうえで、その結果を当該表現の現れる文脈と照らし合わせるという手順で考察を進めた。検討の結果、この表現に「「敵」を「友」として確固たる平和を達成する指揮官」といった含意が込められていることを結論とした。 図書:高橋宏幸訳『シーリウス・イタリクス『ポエニー戦争の歌』2 』 『プーニカ』の邦題を『ポエニー戦争の歌』として全17歌のうち第8歌までの邦訳を収めた第1分冊を昨年度に刊行したのに続き、第9歌以降を収める第2分冊を刊行し、訳業を完成した。第1分冊同様、本邦初訳として作品理解に資する平易な訳文を提供するとともに、詩作にあたって踏まえられているリーウィウス、ポリュビオスなどの歴史書の記述、ウェルギリウス『アエネーイス』および『農耕詩』、オウィディウス『祭暦』および『変身物語』、ホメーロス『イーリアス』および『オデュッセイア』などの詩作品の表現について詳細な註を付した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、シーリウス・イタリクスの歴史叙事詩『プーニカ(Punica)』全17歌について、叙事詩の伝統との関係、歴史著作との関連、詩人の生きた時代といった作品の置かれた「文脈」の検討を通して文学表現の特色をさぐり、そこから、作品の独創性と卓越性、および、西洋古典文学の伝統におけるこの叙事詩の位置づけを明らかにすることを目的として出発し、(1)基本データの確認整理として、(1.1)本文批判上のデータ確認と整理、(1.2)本邦初訳となる作品の邦訳作業、(1.3)作品の特徴的文体の用例の収集とそれらの効果についての検討、(1.4)詩句のレベルでモデルとなった先行作品との比較を行ないつつ、(2)作品の「文脈」をめぐって、(2.1)神話的枠組みと叙事詩の諸技法という二つの観点から叙事詩の伝統との関係、(2.2)題材としての歴史著作の取り込み、(2.3)フラーウィウス朝期叙事詩としての位置づけについて検討したうえで、(3)作品全体を俯瞰する解釈を目指す。 研究第3年度である2023年度は、まず、『ポエニー戦争の歌』の題名のもとに京都大学学術出版会西洋古典叢書として邦訳刊行を果たし、上記の(1)全般、また、(2.2)に関するまとまった成果が盛り込まれた。また、第16歌141行の詩句をめぐる口頭発表はウェルギリウス『アエネーイス』に歌われた「戦争」のテーマがこれまで認識されていた以上に深く『プーニカ』にも表現されていることを観察した点で(2.1)および(3)に関わる成果をもたらした。加えて「戦争」という面では、フラーウィウス朝期の「内乱」という時代背景との関連から(2.3)の検討のための視点の一つが得られた。
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今後の研究の推進方策 |
次の二つの方向で考究を勧める。 その一つは、研究第2年度において観点として浮かび上がりながら、まだ十分に検討しきれていない、作品中のいわゆる縁起譚についてで、とくに詩人の創作である可能性が高いものに関して、一定の物語パターンをさぐりつつ、詩作手法の理解を深める手がかりとするよう努める。 いま一つは、「戦争と和解」という観点から、真の和解達成には欠かすことのできない「信義(fides)」のモチーフについて考察を進める。近年、「信義」をフラーウィウス朝期文学のプロパガンダの一つとして考える論文集(Augoustakis, A., E. Buckley and C. Stocks (edd.), Fides in Flavian Literature. Toronto 2019)も刊行されており、『プーニカ』のフラーウィウス朝期叙事詩の中での位置づけという面に資することを期す。
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